ジョルノ様は神様です! | ナノ



あなただけです


「ただいまー」
学校が終わり、私は珍しく真っ直ぐ一人で暮らしているアパートに帰ってきた。
一人暮らしなのにただいまと言ってしまうのは、泥棒対策と癖のせいだ。
「鍵OK、と…」
カチャン、としっかり鍵を閉めて、私は廊下を進んだ。
今日はギャングの仕事はお休みなので、普段滞りがちな部屋の掃除をしようと思っている。
ソファに鞄を置き、適当な部屋着に着替える。
特に任務で使う服が山になっているので、とりあえずこれを洗濯機にぶち込まなくては。
私がゴソゴソと使用済みの服をかき集めていると、部屋の隅からすっかり忘れていた大事なものが出てきた。
「っあ、これ…!」
目の前でパッと広げてみると、それはメンズ物のシャツだった。
いつか、雨に濡れた私にジョルノ様が貸してくれたものだ。
洗濯はしてはあるが、無造作に置かれていたせいでシワになってしまっている。
「あちゃー…すっかり忘れてた…」
私はシャツを片手に頭を抱えた。
もう一度洗ってアイロンをかけなかれば。
確か今日はジョルノ様もオフだった筈だ。運が良ければ寮にいるだろうか?
そんな事を考えながら、私は他の服も一緒によいしょ、と抱え込み、一気に洗濯機に放り込んだ。


もうすぐ日も落ちる夕方ごろ。
洗濯が終わり、アイロンがけをしたシャツを綺麗にたたみ、それを袋に入れ、私はジョルノ様の寮へと向かっていた。
いきなり訪ねて迷惑かなぁ…と思ったが、これを理由にジョルノ様に会える!と思うと足取りは驚くほど軽かった。
学校を通り過ぎ、こっそりと男子寮に忍び込む。
仕事柄か、気配を消せば誰かにバレると言うことはないだろうが、何と無くドキドキとする。
1度だけ通った事のある、ジョルノ様の部屋へ続く廊下を静かに歩く。
角を曲がり、もうすぐジョルノ様の部屋だ、と言う所で、運良くジョルノ様が部屋の前に立っているのが見えた。
私はパッと顔を明るくして、たたっと小走りに駆け出した。
「ジョルノさ…っ」
走り出した矢先、私はキュッと足を急停止した。
「気が変わったら、いつでも呼んでね」
「はいはい」
ジョルノ様が部屋の前で、女子生徒と二人きりで何か立ち話をしているようだった。
私は予想外の光景に、ピタッと金縛りにあったように動けなくなってしまった。
「ふふ、じゃあまたね」
「…!」
そう言って、女子生徒はジョルノ様の頬にちゅっとキスをした。
ジョルノ様は難しい顔をしながらそれを無言で受け入れている。
「あっ…」
私はギュッと胸が痛み、ふらっとよろめいた。
目の前で起こったことがとてもショッキングで、時間が止まってしまったようだった。
「…っ」
私はジリッ…と後ずさりをして、そのままたまらず来た道を走って引き返した。
「…きょうこ?」


「はあああー…」
寮を出て建物の日陰に入り、私はしゃがみ込んで深いため息をついた。
私はいったい何をしているんだろう…。
私はただジョルノ様にシャツを返しに来ただけで、ただのチームのメンバーでしかない私が嫉妬するだなんて、お門違いだ。
…でも。
「好きなんだから、仕方ないよね…」
私はボソッと呟き、ぎゅっと膝を抱えた。
好き。先程のあの女子生徒も、ジョルノ様の事が好きなのだろうか。
あの子だけじゃあない、ジョルノ様の事が好きな人なんて沢山、星の数ほどいるんだ。
チームになれたからって悠長に構えていたかもしれない。
「距離は、少しでも近付いたのかな…」
はぁ、とため息をつくと、普段感じない焦りや不安が押し寄せて来た。
虚しくなって目を閉じ、膝にコツンと額をぶつけると、不意に近い距離からジャリ、と地面を踏む音がした。
「人が貸した服を置いて逃げる奴がありますか」
「っジョルノ様…!」
パッ!と顔を上げると、そこにはジョルノ様がいた。
その手には私が洗濯したシャツが握られており、私は今になってやっと自分がシャツを落とした事に気がついた。
「ああっ、すみません、お取り込み中だったようなので、慌ててしまって…!」
また洗濯して返します…!と頭を下げると、ジョルノ様がスッと私に手を差し出した。
「そんなの、わざわざいいですよ」
私は顔を上げて、恐る恐るその手を取った。
すると優しく引っ張られ、立つように促される。
私はジョルノ様の手をぎゅっと握り、木の葉が風で舞う中スッとゆっくり立ち上がった。
「ジョルノ様…」
さああっと風がふく中、少し赤くなった目でジョルノ様を見つめる。
「…来て下さい」
そう言って、手は繋いだまま、私はジョルノ様に引かれてまた寮へ足を踏み入れた。
運動部の掛け声が遠くから聞こえる寮の廊下に、コツコツと二人の足音が響く。
暫く無言で歩いていると、ジョルノ様が不意に口を開いた。
「あの人はどこの誰かも知りません。いきなり部屋まで訪ねてきました」
私があの女子生徒の事を気にしている事なんて、ジョルノ様にはバレバレなようだった。
私は俯いて黙ってジョルノ様の話を聞く。
「結構こう言うことがあるんです。でも、僕は女性を部屋の中へは入れた事はない」
「…!」
部屋の前に着くと、ジョルノ様がゆっくりとこちらを見た。
「あなただけです」
目をジッと見つめられて、私は先程のモヤモヤした感情が消えていくのを感じた。
「ジョルノ様…」
「チームですからね。任務ではあなたに助けられることもありますし」
ポケットにゴソゴソと手を入れると、ジョルノ様は鍵を取り出し、部屋の扉を開けた。
「あなただけ特別です」
キィ…とゆっくり扉が開く。
「入ってください。お茶くらい出します」
「…っジョルノ様〜!」
私は感極まってジョルノ様に勢い良く抱きつこうとしたが、片手一つで防がれてしまった。
それでも嬉しくて、私はニヤニヤと顔がほころんだ。
チームだから。今はそれだけで十分かもしれない。
ジョルノ様が先に部屋に入り、私もお邪魔します、と足を一歩踏み出した。


その帰り道、私は真っ黒な影に包まれたかと思うと、突然意識を失った。
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