Clap



大学に設営されているカフェテリアは、学生たちの憩いの場である。
何しろ傍にはコンビニの如く品揃えのいい売店や自販機がある上に、空調も効いていて快適この上ない。普段から人の絶えないこの場所は、昼時ともなると多くの学生でごった返す。私はその中の一角にあるテーブルで、同じ学部の白石と尾形と食事を共にしていた。

そもそもこの二人との付き合いは入学時のオリエンテーションからだ。その時たまたま席が近かったのに加え、専攻も同じだったので講義でも顔を合わせることが多く、こうやって三人でつるむ事が多くなった。私にも女友達は居るが、皆彼氏がいたり、別の講義などでなかなか会う事が出来なくなり、昼休みになると、カフェテリアのいつもの席に誰ともなく集まり始め、気が付けば同じ面子が揃っているという有様だ。既に私たちは3回生なので、この付き合いも早いもので3年目に突入していることになる。
私以外の二人は何をどう思っているのかは知らないが、私は結構この面子で居ることに居心地の良さを感じている。と、言うのも男特有の、とでも言うべきか、会話の内容は本当にくだらない事ばかりで気を遣わずに済むし、お互いの懐に入りすぎない適度な距離感も心地よかった。
そんな訳で、私は今日もこの男達の前で売店で買った菓子パンを頬張っているのだ。

今日は毎週購入している週刊誌の発売日だったらしく、白石がおにぎりを齧りながら雑誌をぺらぺらと捲っている。

『ねぇ、雑誌読むのはご飯が終わってからにしたら』

私が窘めると、白石は肩を竦めて雑誌を閉じた。

「いやぁ、俺の好きなアイドルのグラビアがあってさぁ。我慢できなくって」

ちらりと手元の雑誌を見遣ると、扇情的な水着を着た女の子が表紙を飾っていた。確かに、白石好みの可愛い色白の女の子だ。名前も書いてあるようだが、聞いた事が有るような無いような、女の私にはあまりそういった知識は無いので小首を傾げる他なかった。

「やっぱりさぁ、胸の大きい女の子は良いよねぇ。女の子は顔もだけど、胸だよね」

白石は、この場にいるのは男だけだと思っているのだろうか。女の私の前でそう言われても、どう反応したものか。もう一度白石が後生大事に抱えている雑誌の女の子を見ると、成程、平均を大きく上回るであろう豊かな胸をお持ちのようだ。

「尾形ちゃんもそう思うよね」

白石が尾形に同意を求めた。そう言えば、白石に比べこの男はあまり女性の話を口にしない…比べる対象が白石というのが悪いだけ知れないが。時折噂で尾形が誰かと付き合っただの別れただのというのは耳にするが、どれも噂の域を超えず、終ぞ本人の口から真実が語られることはなかった。見た目はそれなりだし、話してみれば皮肉は多いものの教養もあり退屈はしない。どういう恋愛観を持っているのか、興味深いところではある。

「そうだな…」

尾形は少し答えを勿体ぶるようにして私の顔を見た。そして視線を落とし、私の胸を見遣ると鼻で笑った。

「無いよりは有ったほうがいいんじゃねぇの」

『ちょっと。明らかに私を馬鹿にしたでしょう』

確かに私は人目を引くような胸はしていないが、平均的な大きさであると思う。

「馬鹿にはしてねぇよ。ただ。ちょっと憐れんだだけだ」

『それが馬鹿にしてるっていうの!』

「まぁまぁ、持たざる者が持てる者に嫉妬するのはよくないよ」

私と尾形の会話に、白石が割って入った。持たざる者とは私の事か。散々な言われようだ。

『っていうか、胸なんて大きけりゃ良いって訳じゃないし』

これから私が発する言葉は、悉く負け犬の遠吠えとして聞き流されるだろう。しかし、私は日本の平均的な女性として断固訴えなければならない。雑誌のグラビアなど所詮は男の夢と理想でしかなく、実際に一般男性の手が届くのは私のような貧相、もとい、平均的な女性なのだ。

「ほう、じゃあ何が良けりゃいいんだ」

聞捨てられると思っていた私の発言に、尾形が反応した。不敵な笑みからは、私を困らそうという意思がありありと汲み取れる。テーブルを挟んで、二人の男が私に視線を注ぐ。

『…形…とか』

苦し紛れに発した言葉を受けた二人の男は、今度は私の胸を注視した。私達の席だけが沈黙に包まれ、周囲がやけに騒々しい。そこで口を開いたのは白石だった。

「いやいや、それは服の上からじゃわかんないじゃん」

『…分かんなくていいのよ。私は彼氏でもない男に見られるほうが不快だわ』

そうだ。そもそも胸なんておいそれと見せるものではないのだ。お付き合いをして、信頼を勝ち得てようやく見えるものなのだと理解していただきたい。

「そこまで言うなら、自分では相当自身が有るんだな?」

尾形が今までにない程にこやかな顔で私を見る。笑顔というのは、見る人の心を解きほぐし穏やかにすると言うが、この男に限ってはそうでないらしい。背中を嫌な汗が伝うのが分かる。テーブルを挟んで目の前にいた尾形は立ち上がると、今度は私の隣の椅子にどかりと腰を下ろした。

「じゃあ付き合おうぜ」

白石が冷やかす様に口笛を吹く。その音に反応して今まで騒々しかった学生たちが会話を止めて此方を見た。売店の方を横目で見遣ると、彼氏ができたと言っていた友達が件の彼氏くんと仲良く昼食を買って出てくるところだった。助けて、と目で訴えるが彼女は彼しか見ていない。

「全部見せてくれるんだろう」

そう詰め寄られて、自分の発言を後悔するしかなかったのは言うまでもない。




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