あれからリーマスくんは、たぶん、わたしを避けてる。

おんなじ寮でおんなじ学年でおんなじ授業をとっているというのは、意味があるようで、ない。会話をしないということはとても簡単で、とても自然だった。声をかけようとすると、すっと背中が遠ざかる。おもしろいくらいに。
ただ、リーマスくんはまだリリーからあの本を借りているらしい。
わたしが彼の最近のことについて知っているのは、それくらい。それだけ。

嫌われちゃったのかな。

そんな不安を口に出すこともできなくて、わたしは誰かの頭ごしに彼の顔をみる。リーマスくんはお節介なわたしに怒って、嫌いになったのかもしれない。他人の恋愛に口を出すなんて、わたしはなんておこがましかったのだろう。


「よ、なまえ」

魔法史の授業で、リリーが来るのを待っていたわたしの隣に座ったのは、あろうことかシリウスくんだった。珍しい。そんな驚きを隠しもせず、目をぱちぱちとさせると、シリウスくんは面白そうに笑った。

「ジェームズたちは?」

リーマスくんたち。と言いそうになって、やめる。名前を出したら彼の話題になってしまいそうで、そしたらシリウスくんに「リーマス、おまえのこと嫌いだって」て言われそうで。グリフィンドールの王子様は、ずばずば物を言うことで有名だった。

「あー、アイツらサボり」
「ええー…」
「ピーターのレポート手伝ってる」
「そうなんだ。やさしいね」
「とか言って、魔法史出たくないだけだぜ。俺はジャンケンで負けた」
「……」

なにも言わずに苦笑すると、シリウスくんはわたしが開いていた本に目を落とした。ふーんとたいして興味がなさそうに呟いた。

「その本、リーマスも読んでたな」

どきり。彼の名前に心臓が動く。

「そ、そうなんだ」
「おもしれーの?」
「わたし、こういうの好きだから。おとぎ話とか、やさしい話」
「へぇ……てっきり推理ものかと思った」
「え?」
「リーマス、前に推理ものばっかり読んでるって言ってたからさ」

わたしはびっくりしてなんて言っていいのかわからなかった。
リーマスくんが推理ものが好きだなんて、一回も聞いたことがなかった。だって、彼はいつもわたしが読んだ本を読みたがって、わたしが好きそうな本を貸してくれたから。僕もこういうの好きなんだ、趣味合うね。なんて笑いながら。

「あのさ…お前ら、なんかあった?」
「……え?」
「リーマスが元気ねーから」

元気ない?その理由は知らない。ただわたしが知ってるのは、彼がわたしを避けてることだけ。

「怒ってるんじゃなくて?」
「は?いや、怒ってはない、な。なに、喧嘩した?」
「そういうんじゃないけど…」

なんて説明すればいいかわからないわたしは、口を閉ざして視線を落とした。しばらくして、シリウスくんがため息をつく。顔をあげれば、難しい顔をして額に手をあてているシリウスくん。

「リーマスってさ、自分のこと話さないんだよな」
「え?」
「悩み事とかまるでないように振る舞ってさ、とりあえず笑って」

最後にみた、あの悲しい出来損ないの笑顔が頭を過ぎった。それは、わかる気がした。

「あんなに仲いいのに?」
「まーな…俺らに迷惑かけないようにって思ってんのかもしれねーけど、」

そういうのって、ズルいよな。

目を細めたシリウスくんは、怒ってるようでも悲しんでるようでもあった。
そんな顔をさせるぐらい、大切にされているリーマスくんが、あんな悲しい笑顔をするなんて、とてもおかしな話に思えた。そしてその笑顔を生み出したのがわたしかもしれないことに、呼吸が出来ないほど苦しくなる。

ねえ、リーマスくん。
わたしのこと嫌いでもいいから、もうわたしに話かけてくれなくてもいいから

だから、お願い、ちゃんと笑ってみせてよ。わたしの大好きなあの笑顔で。

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