僕がはじめてなまえのことを意識したのが、いつだったかはわからない。
同じ寮で、同じ教室で、同じテーブルで。他の誰とも変わらない時間を過ごしていたはずなのに、僕はいつの間にか、なまえだけを目で追っていた。


ただ、声をかけようと思ったきっかけは覚えてる。
湖でジェームズたちと騒いでいたとき、ふと見つけた木の下に、なまえがいた。彼女は、本から目を上げて、とても優しい顔で僕たちを見ていた。僕たちが楽しんでいることが、楽しいみたいに。嬉しそうに微笑んでいるのが、なんか、とってもよかった。なんか、とってもすきだった。

でも、そこからが、大変だった。

なまえが本が好きなのは知っていたから、まずは彼女がどんな本を読んでいるのか調べた。図書館でこっそり見守ったりして、僕はなまえが読んでいた本を片っ端から読んだ。少しでも知りたい、そう思ったから。今思うとストーカーみたいで気持ち悪いけど、その時は必死だったんだ。

「なに読んでるの?」

たった一言。声をかけるまでにすごい時間と、勇気が必要だった。顔をあげたなまえはとってもかわいくて、僕は喉がからからになった。

「あ、同じ本、僕も読んだことがあるよ」
「ほんと!?」
「面白いよね」
「ね!あ、じゃあ、この人の書いた他の本貸すから、よかったら読んでみて!えっと…リーマスくん?」

初めて、会話をした。初めて、僕に笑ってくれた。

それから段々話すようになって、本を交換するようになって隣の席に座って、ジェームズたちも一緒にお茶をするようになった。僕は監督生になって、なまえはどんどんきれいになっていった。僕の想いは、それに増してどんどん締め付けられて苦しくなって。


何年もかけて僕が縮めた距離は、なまえにとって友達としての距離だったと気がついた時にはもう遅くて、僕の恋を応援すると笑った彼女がひどく残酷に思えた。
諦めなければいけないと、悟ったはずだった。
だけど、他の男に抱きしめられているなまえを見た時、頭が真っ白になって、苦しくて、心臓が止まりそうになって、諦めるなんて到底できるはずがなかった。


「協力して欲しいことがあるんだ」

意を決して、ジェームズたちに言った途端、みんなは目を丸くして顔を見合わせた後、すぐにいつものにやりとした笑顔を浮かべて、とんでもないことを言った。

「なまえのことだろ?」
「……なんで、」
「まさか、俺らが気付いてないとでも思ったのか?何年も前から好きだったくせに」
「……まいったな…」

この頭のキレる友人達に、隠し事など不可能だった。よく考えれば解ることなのに、ずっと隠し通せてると思ってた自分はばかみたいだ。

「で?」
「告白、しようと思うんだ。誕生日に。その時に、この本のラストを再現したくて」
「ほほーう、リーマスがそんなにロマンチストだったとはなあ」
「……うるさいな。告白がダメでも、なまえにプレゼントしたいんだよ」
「へーえ」

にやにや。楽しそうに微笑まれて、僕は羞恥のあまり少し後悔した。でも魔法に関しては、彼等以上に頼れる人はいないし、それ以前に相談できる相手なんて。

「でもよ、」

シリウスが、本に目を通しながら呟いた。

「リーマスが俺らに何か頼むのって、はじめてだな」

とっても嬉しそうに笑うものだから、僕はなんて返していいのかわからなくなった。
そうかもしれない。いや、そうだ。
相談なんてしたことなかった。迷惑に思われるのが怖くて。いつだって僕はずっと一人で、

「ま、これもなまえのおかげってわけか!」

にっと楽しそうに笑ったジェームズに背中を叩かれて、僕はむず痒くてしかたない。
ずっと怖くて踏み出せなかった一歩。それをなまえが後押ししてくれた。踏み出してしまえばなんてない一歩。だって僕は、彼等の友人なんだから。


「ありがとう」

この気持ちを伝えなきゃ。
伝えないとわかってもらえない。近づかなきゃ触れられない。嫌われてもいいから、せめて僕のこの気持ちを、あの子に。
大好きで大好きでしかたない、なまえに。


「……リーマスくん、」

唇を離したなまえの顔は、驚くほど真っ赤だった。だけど今度は逃げたりしない。僕の手をきゅっと握って、恥ずかしそうに微笑んだ。

「ね、なまえ」
「なに?」
「最後の台詞、覚えてる?」

なまえははっとした後すぐに俯いて、こくこくと首を縦に振った。

「僕に言わせてくれる?」
「で、でも、あれは主人公の女の人の言葉だよ」
「でも、僕にぴったりだから」

顔をあげたなまえはちょっと緊張しているみたいで、微かに震えてて、だけど僕の目をじっと見つめ返してくれた。
僕はその震える指先を出来るかぎり優しく包んで、彼女の綺麗に澄んだ目を見つめる。

「今までもこれからも、ずっとずっと好きだよ」

だから、僕とずっと居てくれる?

なまえは照れたようにはにかむと、頭に乗せていた花冠に手を伸ばした。それを僕の頭に乗せて、それからちょっと迷うように視線をさ迷わせてから、柔らかい唇を僕の頬に押し付けて、恥ずかしそうに笑った。

「もちろんだよ、王子さま」

ふわっと春の匂いがする優しい風が吹いた。彼女の髪を揺らして、花冠を掠めて、僕たちの周りの花びらをさらって、湖の上を走っていく。

しあわせだね

なまえがそれを見送りながら、嬉しそうに、笑った。

end

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