ゆいながダイニングに戻ると、すでに料理が運ばれてきていた。綺麗に盛りつけられた彩り豊かな前菜が並んでいる。
「おっそーいゆいな!どこ行ってたのよ!」
「うん、ちょっとね」
園子の声に、蘭が顔をあげた。不安そうに見上げてくる瞳に、一度頷くと、彼女の隣に腰を下ろした。
「…ゆいな」
「大丈夫だよ」
何が大丈夫なのか。それ以上をここで話すべきでないのは蘭も分かっていて、彼女はこくんと首を縦に振ると何事もなかったかのように、園子と喋りながら食事をはじめた。
コナンが不審そうに自分達をみていたのに気がついて、ゆいなは微笑んで応える。
「(快斗…)」
中森たちのテーブルに料理を運ぶウエイターを見つめる。快斗のことだから、本当になんとかしてくれるだろうし、確かにそのうち新一自身が否定して解決するような嘘だ。わかってる。全部理解できる。
ただ、自分が心苦しいだけで。
「あーあ、待ち遠しい!はやく大阪に着いてキッド様に会いたーい!」
「もう、園子ったらそればっかり…」
「だって、早く会いたいんだもの!そして願わくは、その不敵な唇に私の唇を重ねて…」
ぱっと、意識せずともゆいなの脳裏に、園子とキッドがキスをしている様子が浮かぶ。考える前に口が動いていた。
「そんなのさせないから!」
「だめだめ!そんなの絶対だめー!」
自分のではない叫び声に驚いて顔を向けると、蘭が顔を真っ赤にして立ち上がっていた。はっと自分の言ったことに気がついて、慌てて座る。
「え?」
「だ、だってキッドは犯罪者でしょ!そんなの不謹慎よ!」
「そうそう!それに、園子が思うほどキッドは紳士じゃないかもよ?」
「何ムキになってんのよ、キッド様は紳士じゃないっ」
「そう見せといて、実はスケベかもしれないじゃ、」
「お待たせ致しました、食後のコーヒーでございます」
がちゃ、と少々乱暴な音を立ててティーカップが置かれる。見上げれば、満面の笑みのウエイターもとい、快斗。
「あり、がとう(怒ってる…)」
顔を引き攣らせるゆいなに対して、蘭は赤くなった顔をさっと反らした。
その様子をみた途端、ゆいなはあっさりと自分が何故こんなにももやもやした気持ちでいるのかを理解した。
嫉妬しているのだ。
キッドの正体が新一であると蘭が思ってる以上、キッドが蘭のものになってしまったような気がして。それがただ嫌で、キッドの正体は自分の快斗だって、言ってしまいたくて。
「……情けないなあ」
「なにが?」
小さく呟いた言葉を、コナンが拾いあげて尋ねてくる。それに答えようと口を開いたとき、無機質な携帯電話の呼び出し音が鳴った。
「なんじゃと…!」
電話に答えた、緊迫した次郎吉の声。何かあったのだと察したゆいなとコナンが顔を合わせる。嫌な予感がした。その予感を裏付けるように、中森たち警察数人がダイニングを出ていく。
「喫煙室に、殺人バクテリアが撒かれていた」
数分後に戻ってきた中森が発した言葉に、その場にいた全員が凍り付いた。
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