06



「なにやってんの!?」

喫煙室の横の空き部屋。
快斗がドアを閉めると同時に、ゆいなは声を荒げた。
しー、と快斗が人差し指を唇に当てるので慌てて口を閉ざす。
目の前の男が快斗に戻るのを見ながら、ゆいなはなんとか気持ちを落ち着かせ、ようとしたが不可能だった。
新一とほとんど同じ顔。だけどふわふわの髪。パーツパーツは似ているけど、やっぱり違う。彼はやはり、ゆいながよく知る黒羽快斗だった。

「ふー…あっぶなかった」
「危なかったじゃないわよ!」
「……んだよ、しょーがねーじゃねえか、変装がバレちまったんだし」
「だからって、新一だなんて言わなくても…!」

蘭が信じ込んで悩んでる姿を、ゆいなは見ていられない。快斗は前髪をかき上げると、首元の蝶ネクタイを外して目を細めた。

「蘭がどんな思いで新一を待ってるか、快斗はわかんないかもしれないけどさあ」
「だーかーら、ちゃんと後で違うって証明するって。それに、すぐにバレるような嘘だろ?」
「……でも、」
「他に方法がなかったんだよ」

あのままじゃ、中森警部に突き出されてたし。

快斗の言い分を、ゆいなは確かに理解していた。けれど、どうしても気持ちがそれに追い付かない。自分も蘭を騙しているような気がして、つらかった。それと同時に、自分が見つけられなかったキッドを蘭が見つけてしまったのも。

「……あのよ、」

黙って俯くゆいなの顔に、ふと影がかかる。
顔をあげれば、顔の横の壁に快斗の手が当てられていて、目の前には少し不機嫌な顔の彼。ゆいなは眉をひそめた。

「オメェ、あの名探偵となんなんだよ?」
「は?」
「だから、さっきから新一新一って。オレを最初に見たときも、新一って言ったよな」
「そりゃ、新一に変装してたから、」
「でも、素顔だった」

う、とゆいなは言葉につまった。自分自身でも気にしていたことだった。結果的によかったことにしろ、正直に最初は新一だと思ってしまったのだ。よく考えれば、よく見れば分かることなのに。

「なあ、ゆいな、」
「新一は、大事な幼なじみだよ?」
「幼なじみを抱きしめたり、キスしたりすんのか?」

不機嫌さを隠そうともせずに、快斗が眉を寄せる。そのまま顔を近づけてくるから、ゆいなは彼の腕を掴んだ。コナンをからかいながら抱き上げた。心当たりがあった。

「見てたの?」
「……おう」
「あんなの、スキンシップだよ?私と青子が抱き合ったりするじゃない」
「でもあいつは男だろ?」

触れ合う数センチ手前。
快斗の瞳が切なそうに歪められる。その目にどきりとしたゆいなは、しかし距離が一段と近くなっていることにはっとして、自分の動きを止めていた腕を、壁から離すように押し返した。
流されてはならない。
蘭のことは解決していないし、そもそもここに二人きりでいることもとても危ない。それに男だといっても、今、新一は子供の体なのだ。

快斗がむっとした表情で口を開いたとき、こつんこつん、と廊下から足音がした。誰かが喫煙室にやってきたのだ。
快斗は一度ゆいなと目を合わせると、もう一度マスクを被り、ネクタイをとめた。
喫煙室のドアが閉まった音を確認して、別人の顔で快斗が囁く。

「あの蘭って子は、後でちゃんとなんとかする。だからゆいなはもうちょっとオレに騙されててくれ」
「……わかった」
「…じゃあな」

快斗、と思わず呼び止める。もやもやして、ごちゃごちゃで、しかたなかった。

会いたかったこととか、蘭のこと、藤岡に抱いた不安、新一のこと、いろいろ言いたいことがあるはずなのに、何を言えばいいのかわからない。これを逃したら、この飛行船を降りるまで話せないかもしれないのに。

何も言わないゆいなに痺れをきらしたのか、快斗はもう一度「じゃあな」と言ってドアをそっと開けて出ていった。

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