05



ゆいなはエレベーターの透明なガラスに手を当てて、考えた。
快斗は見つけてみろと言った。
だけど全然わからない。なにかヒントがあっただろうか。自分が見逃しただけ?飛行船に乗ってから出会った人の顔が浮かんでは消える。
ただひとつ思い浮かんだのは、彼がスカイデッキに下見に来るかもしれないということだった。

エレベーターが止まり、扉が開く。

「……ゆいな!」

一歩踏み出そうとしたゆいなは、その声にはっと顔をあげた。
目の前にいたのは、目を丸くした蘭と、

「しんい…んっ!?」

ウエイターの服を来て、慌ててゆいなの口を塞ぎエレベーターに引きずり込んだ、工藤新一だった。

二人の頭の向こうに、中森たちがいる。彼等が振り向くと同時に、エレベーターの扉が閉まった。
ゆいなはわけがわからず、とりあえず自分の口を押さえ呼吸の邪魔をする男の足を思いきり踏み付けた。

「いって!何すんだよゆいな!」
「うっさい新一!殺す気?」

呼吸が正常に出来るようになって、はっとする。
彼が、工藤新一であるはずがなかった。顔も声もうり二つ。でもさっきの自分を呼ぶ声は、

「(…快斗だ)」

ゆいなは口をつぐんだ。新一に化けたウエイター姿の快斗と蘭が一緒にいる。頭がくるくると回り、すぐに状況が判断できた。しかしその後自分がどういう行動をとればいいかが解らなかった。ゆいなはコナンほど役者じゃない。
現に困ったように顔を見つめてくる蘭になんと言えばいいのかわからなかった。どっと汗が噴き出す。どうしよう。

「えー…なんだ。蘭、さんきゅー、な。ゆいなは、えーと、」

快斗が気まずそうに笑った。
蘭は、何も答えずに下を向く。すごく困惑しているのが手にとるようにわかる。ゆいなは蘭の苦しそうな顔が見ていられなくて、口を開こうとする。途端、快斗が目配せをして口をぱくぱくさせた。

だ ま っ て ろ

かちん、頭の片隅で音がしたような気がしたけれど、ゆいなはなんとか言葉を飲み込んだ。
快斗はかまわず、変装用のマスクを被る。まだ出会っていない顔だった。

「じゃあ、ゆいなにはオレから説明しとっから」

エレベーターを降りて、快斗がゆいなの腕を掴む。蘭の性格なら絶対に着いて来て問い詰めると思ったゆいなだが、彼女は足元を見つめるだけだった。

「ねえ、」

階段を降りようとしたところで、上がってくる藤岡がみえたゆいなは慌てて快斗から離れ、蘭も顔を反らした。藤岡がいなくなってから、蘭が弱々しく言う。

「わたし、信じてないから」

心配しないで、こいつは新一じゃない!
そう言ってしまえれば楽なのに、ゆいなはそうできなかった。蘭の辛そうな顔をみているのが苦しい。けれどキッドの正体をバラすことももちろんできなかった。

「では、失礼します。行きましょうか」

快斗はその言葉には何も答えず、声を変えてお辞儀をする。不安そうに下を向く蘭に何も言えず、ゆいなは階段を降りた。

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