04



「(まーた、すごい仕掛け…)」

ゆいなは、仕掛けの餌食になりくたくたになって額に手を当てる毛利に同情を送った。指紋認証のガラスケースに、落とし穴になる床のパネル。さらにはキッドが上空に逃げるのを遮るためのセンサーまで完備してある。中森は警備が少ない状態に満足がいってないようだったが、自信満々の次郎吉にそれ以上言えないようだった。

「それにしても、ゆいなちゃんまでいるとはなあ」
「お久しぶりです、おじさん」
「何か気がついたことがあったら、すぐに教えてくれよ」

作戦の練り直しをするぞ!
中森はそう叫ぶと、数人の部下を連れてエレベーターに乗り込んでいった。

「キッドが下見に来るかもしれないのに、いいのかしらね」
「哀ちゃん…」
「なーに!来たとしても、夕方まで手出ししやせんよ」

次郎吉が快活に笑う。自分の対策にも、敵であるキッドの性格にも自信があるのだろう。ゆいな自身も、キッドが予告前に仕掛けをすることはあっても盗ることはないと分かっている。

「あ、海ですよ!」

光彦が叫ぶ。ゆいなたちは、海を眺めならダイニングで昼食を待つことにし、スカイデッキを後にした。


「……あ、」

エレベーターに乗ったときに、何か固いものを蹴った。ライターだった。

「あら、それ、藤岡さんのじゃない?」
「かも。喫煙室ってBデッキでしたよね?」
「あ、はい」
「私渡してくるよ。ないとタバコ吸えないし」
「じゃ、私と蘭はトイレ行ってるわー」

園子がひらひらと手を振る。
それに応えて、ゆいなはエレベーターを降りてみんなと逆方向に歩き出した。
途中でライターがないことに気がついて戻ってきた藤岡と鉢合わせすると思ったのだが、会うことはなかった。

「(おかしいな…)」

タバコを吸うのはやめたのだろうか。
不信に思いながらも、喫煙室のドアを開ける。

「藤岡さーん?」
「……っ!?」

ソファーに手を当てて立っていた藤岡が、とても慌てた様子でこちらを振り返った。その目が一瞬とても恐ろしく光ったように見えて、ゆいなは息を飲んだ。けれどすぐに藤岡は笑顔を浮かべた。

「な、なんだ、どうしたよ?」
「え…あの、ライター…」
「ライター…あ、」

ゆいなが部屋に入って、ライターを取り出すと、藤岡は目を見開いた。

「い、いやあ!やっぱり落としてたのか!探しても見つかんねーから困ってたんだ」
「……はあ」
「ありがとな!」

藤岡はライターを受け取ると、ゆいなの両手を握り大袈裟にぶんぶんと振った。

「それじゃ、」
「おう」

藤岡はタバコに火をつけて一息ふかしてから片手を上げた。ゆいなは何か不信に思いながらも、何も言わずに喫煙室を出た。
あの一瞬走った悪寒は、なんだったのだろうか。急になにか、怖くなる。ざわざわと、胸騒ぎがした。

「……快斗」

この飛行船にいるなら、会いたいよ。

ゆいなの足は自然と、スカイデッキに向かっていた。

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