「おっきーい!」
歩美の言葉に、子供たちがきゃいきゃいと騒ぐ。飛行船をはじめて目にして、ゆいなは正直、子供達と同じ感想を抱いていた。白くシンプルなかたちの飛行船は、青空に綺麗に映えていた。
「すごいねー!」
「ゆいなお姉さんも乗るのはじめてなの?」
「うん、楽しみだね」
「ねー!」
「先行っくぞー!」
「あ、元太くん待ってよう!」
ぱたぱたと走り回る子供たちをよそに、ゆっくりと歩いてきたコナンに苦笑する。あからさまにつまらなさそうな顔をしている。これで蘭が振り向いたら笑顔に早変わりするんだから、本当に役者である。
「もうちょっとはしゃぎなよ…」
「ってもなあー」
「新一、小さいときは乗りたい!って騒いでたじゃん」
「そりゃオメーだろ」
「えーそうだっけ?あ、そういえば蘭ってばさあ」
飛行船に乗り込もうとしたとき、後ろからくい、と肘を引かれる。自分が最後だと思っていたゆいなは、不信に思って振り向いた。作業員らしき男が、ハンカチを差し出していた。帽子を深く被って眼鏡に光が反射しているから、表情はわからないけれど、それは自分のハンカチだった。
「あ、ありがとうございま、」
ハンカチを受け取ろうとした手をそのまま引かれ、びっくりしている間に、男の声が耳元に吹き込まれた。
「オレを見つけてみろよ」
離れる瞬間に、さっと頬に唇が当てられる。
かいと、とゆいなが呼ぼうとした時にはすでに、男の姿はなく、手の中にハンカチがあるだけだった。
「ゆいな、どうした?」
上ってこないゆいなを気にして、コナンが戻ってくる。
ゆいなは「ハンカチ拾ってもらって」と笑って何事もなかったかのように飛行船に乗り込んだ。
しばらくして、ふわりと体の中身が浮くような感覚。飛行船が飛びはじめたのだ。ラウンジのほうから子供達の歓声が聞こえる。
「(邪魔するなって言ったり、捜せっていったり、まったく気分屋なんだから…)」
ゆいなは一人心の中でこぼすと、小さくなっていく景色を見るために、ラウンジに急いだ。
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