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「飛行船に乗るだあ!?」

握りしめた携帯電話に向かって、快斗は叫んだ。電話の向こうの彼女はというと、あっけらかんとして「そうだよ」なんて答えるから、快斗は頭を抱えた。

「園子が誘ってくれて、蘭たちと乗ることになったんだ!」
「オメー…オレが予告状出したの知ってんだよな?」
「あったりまえでしょ」

快斗は手元の新聞を広げた。こんな挑発をするなんて、あのじいさんもなかなか大掛かりなことをする。まあ付き合ってやるか、と上から目線で応えながらも、快斗は本当は内心わくわくしていた。飛行船だなんて、ショーの舞台としては、なかなか出来ない体験である。
快斗は壁にかけられた絵に手を当て、亡き父の隠し部屋に入った。さて、どうするか。

「とりあえず、邪魔だけはすんなよ?」
「ひっど!せっかく大阪まで行かずにキッドが見れるって喜んでんのに!」
「は?いつも見てんじゃねえか。いっちばーん近くで、な」

少し声を低くして囁くように言えば、焦った声で「ばか!」と罵倒がとんでくる。赤くなった顔が容易に想像できるから、何も怖くない。かわいいなあ。

「じ、じゃあ、せいぜい青子のお父さんに捕まらないようにね!」
「おーよ」
「………あ!」
「なに?」
「コナンくんもいるから」
「あー…まあ予想はしてた。ま、大丈夫さ」
「新一なめんなよっ」
「オメーどっちの味方だよ」

彼女はくすくすと笑うと、とびきりに優しく明るい声で一言、「おやすみ」と言って電話を切った。
無機質な音を携帯を閉じて遮ると、快斗は部屋の隅の変装道具が入っている箱を漁った。何に変装して乗り込めば、彼女とちょっとでも一緒にいられるだろうか。
警備員、調理人、ウエイター、操縦士…彼女の友達に成り代わるのが一番いいが、そうすると彼女に後から怒られるだろうし、なによりあの名探偵の近くにずっといるのはまずいだろう。
そこまで考えて、快斗は一人笑みを浮かべた。彼女が飛行船に乗るとわかった途端これだ。これは仕事。デートじゃないんだから。

快斗は箱を閉めると、明日の朝のために準備してあったサッカーボールを足の甲で軽く蹴り上げた。
まあまずは、下準備をちゃんとやることからだな。

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