14



警察のヘリが砂浜に着陸する。
出て来たのは本庁の高木と佐藤。ゆいなも知っている刑事だったため、特にもめることもなくすんなり乗せてもらえるだろう。

「新一、」

工藤新一に扮したキッドが二人と話をつけている隙に、ゆいなはコナンにそっと耳打ちした。

「キッドのことなんだけど…その…」
「安心しろ。オメーの周りを調べて正体を突き止めようなんて思わねーよ」
「ほんとに?」
「んなことしても意味ねーし。その場で捕まえねえとな」
「……そっか、」

ほっと息をはいたゆいなを、コナンが複雑な表情で見つめた。

「オメーは、その、さ…」
「なに?」
「おーい、ゆいなちゃんコナンくん、はやく乗って!」
「あ、はいっ!」

高木の声に、ゆいなは慌ててコナンを抱き上げるとヘリに乗り込んだ。工藤新一に化けたキッドがむっとした顔をしたが仕方ない。ヘリには二人ぶんの余裕しかないのだ。それにキッドの言う作戦のためには、コナンを抱きしめていたほうが安全だ。来るであろう瞬間に備えて、ゆいなはぎゅっと体に力を入れた。

「ゆいなちゃん、大丈夫?」
「え、あ、はい」
「高いところ苦手だったかしら?」
「そんなことないです!でもヘリって初めてで…」

佐藤の問い掛けにゆいなは笑って答えた。それにしても久しぶりね、と笑う佐藤を遮って、キッドが操縦者に指示を出す。
飛行船よりだいぶ上空、少し追い抜いたところでヘリが留まる。窓を開けてコナンとキッドが風向きを確認する。きょとんとする高木と佐藤を置いてきぼりで、

「じゃ、僕たちはこれで」

ヘリのドアを大きく開け放った。ゆいながコナンをぎゅっと抱きしめた瞬間、キッドの手が背中と膝裏に回る。あ、と思う間もなく、体が急降下した。まさかお姫様抱っこの状態で飛び出すことになると思っていなかったゆいなは、思わず叫び出しそうになるのをなんとか押さえこんだ。さっきは無意識のうちに宙にいたから感じなかったが、落ちる瞬間の内臓が浮き上がるかんじにひやりとする。必死にコナンを抱きしめると、いつのまにか白い衣装に戻ってハングライダーを開いていたキッドの向こうに、驚いて身を乗り出している高木と佐藤が見えた。

風に乗り上手い具合に、飛行船の上に着地する。しかし自分の足が着地していないことに不安を覚えたゆいなが降ろしてくれるように口を開くと、視界がぐらりと揺れた。ハングライダーの大きな翼が、前から風を受けて自分達を押し出していた。

「翼、翼!翼をしまえ!」

留まることが出来ずに、キッドが風に押されて後ろ向きに走ることになってしまう。

「オメーらが邪魔でできねーんだよ!」
「私降ろして!」
「今降ろしたら落ちるぞ!?」
「じゃあ新一スイッチ押して!」

もぞもぞとキッドのお腹あたりを探り、ハングライダーのスイッチを捜す。このまま押し出されると、そのまま飛行船から落ちてしまう。

「ちょ、どこ触ってんだよっ」
「うるせ、」
「ゆいなならともかくオメーになんて触られたくねえ!」
「んなこと言ってる場合か!」
「お、おい、そこは、…あ、」
「ヘンな声ださない…でっ!?」

ぐらり、一段と大きく揺れ、キッドの足が宙に浮いたのだと分かった瞬間、視界がくるくると回った。風に流されてしまったのだ。ゆいなは悲鳴をあげながら、キッドの首にしがみついた。コナンの手が何かに当たる。引っ張り出したのはワイヤー銃だった。打ち出したワイヤーが絡みつき、なんとか飛行船から落とされずに済んだ。

「あっぶなかった…」

ワイヤーに捕まりながら、キッドが大きなため息をついた。


「ほんじゃま、グッドラックってことで」
「オメーは行かねーのか?」
「俺はここで、ゆいなと隠れてるさ」

ぐい、と繋いでいた手を引かれて、キッドに倒れ込む形で抱きしめられ、風を避けて座り込む。ゆいなは離れようとじたばたした。

「私は行く!」
「おいおい、さっきの約束忘れちまったのか?俺の言うことは?」
「……絶対、です」
「よくできました」
「でも新一ひとりじゃ…」
「じゃ、これを持っていけよ」

投げるフェイントをかけて渡したのは、小さなシート。次郎吉の指紋シートらしいそれを、コナンがポケットにしまった。

「あ、そうだ。オメーの大切な彼女、気をつけてやったほうがいいぜ」
「蘭のこと?」
「藤岡ってやつに腕を掴まれてた。まあすぐに振り払ったし、大丈夫だろうとは思うけど」
「でも、触っただけじゃ…」
「そうだな」

コナンが考え込むように目を伏せる。ゆいなも蘭の身の安全を考えながら視線を降ろして、はっと目を見開いた。

「どうした?」
「な、なんでもない!新一、気をつけてね」

慌てて掌をぎゅっと握り、ゆいなは首を横に振った。コナンが一度眉をひそめるが、ゆいなが笑うことによってそれを受け流す。

「オメーらもな」

コナンは頷くと、ハッチを開けて飛行船の中へと降りていった。

それを見送って、ゆいなはそっと手を開いた。

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