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「え、新一の声で警察に電話した?」

海岸に置いてあった、学校の朝礼台のようなものに座って海を眺めていたゆいなに追い付いた二人は、コナンの計画を話した。ゆいなはキッドに対して怒るのも新一にキッドのことを弁明するのも忘れて、ただ驚いた。

「どういうこと?」
「そーだよ。工藤新一はオメーだろ」
「だーかーら、俺に化けてくれって言ってんだよ!」

キッドが面倒くさそうに不満を漏らした。
たしかに工藤新一なら、警察のヘリに乗せてもらえるだろう。コナンの計画も、キッドの変装もゆいなは疑っているわけではなかった。

「どうしても、戻るの?」

戻って欲しくない。
それが本音だった。ぽろりと出た言葉にゆいなが慌てる前に、コナンが名前を呼んだ。ああ。肯定されるのは分かっていた。

「でもだって、新一、殺されかけたんだよ?」
「だからって、あのままにしておけねーだろ。蘭たちが居るんだ」
「わかってるけど…!」

コナンが銃を突き付けられたとき。服を掴まれて放り投げられたとき。あの恐怖が背中を走る。ふるり、体が震えて、思わず隣のキッドのマントを握った。
そっと添えられた手に、少し心が緩む。

「あいつら、動きが一般人じゃなかった。多分軍の経験があるんだろうな」
「そんなのと戦うなんて、やめてよ…新一は今、子供なんだよ?」
「ゆいな…」

ごほん。キッドが咳ばらいをする。握られた手に少し力が入って、見上げればモノクルの向こうの目が細められて、頭をくしゃくしゃと撫でられた。

「んな顔すんなよ。名探偵だって策無しであんな危険なとこに乗り込まねーよ」
「…ほんと?新一」
「ああ。俺を信じろって」
「……うん、わかった」

コナンの微笑みが、高校生の工藤新一に重なる。ゆいなは静かに首を縦に振って、同じように笑った。

「あ…でも、」
「ん?」
「乗せてもらえるかなあ…私、警察に協力とかしたことないけど」
「は?」
「ちょ、まさかオメーも戻るとか言わねえよな…?」
「行くに決まってるでしょ!」

ゆいなが立ち上がって胸をどんと叩いた。コナンとキッドは目を合わせると、慌てて彼女の手を引っ張り座らせた。

「馬鹿言うなって!オメーはここに残れ!」
「やだよ!一緒に行く!」
「頼むから居ろって。な?」
「一人だけ残るなんていや!」
「ゆいな、」

困ったように、キッドがため息をはく。彼等の言い分がわからないわけではなかったが、それではどうしてもゆいなの気持ちが収まらなかった。

「邪魔しないし、隠れてろって言うなら隠れる、から。だから、お願い」

せめて、同じ場所にいたいの。
ゆいなが交互にコナンとキッドの顔を見る。その瞳はとても真剣で、彼等にはどうしてもその瞳を突き放すことはできなかった。

「…わかったよ」
「ちょ、おい、キッド!」

先に諦めたのはキッドだった。ゆいなの頭を撫でると、ため息をついてから困ったような笑みを浮かべる。

「言い出したらきかねーからな、オメーは」
「うん」
「ただし、飛行船に戻ったら、俺の言うことは絶対だ」
「わかった」
「よし」

笑顔を浮かべ、彼女の頭をぽんぽんと叩くと、キッドは「いいよな?」という目でコナンを見た。コナンは何も言わずに、しぶしぶといったかんじで首を縦に振る。

「じゃ、決まりだな」

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