自分が嫉妬をしているのだということを、黒羽快斗はきちんと理解していた。
ただでさえゆいなが工藤新一の幼なじみであること、その探偵の名前を頻繁に彼女が口にすることにあまりいい気がしていなかったのに、目の前で抱きしめたり、新一新一と連呼されたらたまったものではない。
だから今、自分がゆいなにしたことも、天敵に見られたことも何も後悔していなかった。
「まあ、そんな拗ねた顔すんなよ名探偵」
にやり、キッドは笑みを浮かべた。隣に立つコナンは、顔をしかめて自分より幾分も高い彼の目を睨みつける。
「オメー、なんなんだよ」
「なにって、怪盗ですが?」
「だーかーら、ゆいなのなんなんだよ!」
似たような質問を彼女にしたな。
キッドは幼い瞳を見下ろして笑った。あの時の自分のように必死になってるコナンが面白かった。と同時に、他の男に嫉妬されているゆいなが面白くなかった。
「じゃあ名探偵は、なんなんだよ」
「俺は…ただの、幼なじみだ」
「へぇ、ほんとにそうか?」
「…んだよ。俺はオメーに聞いてんだ!」
叫ぶコナンの頭を押さえ付けて、キッドは不敵に笑った。見透かしたような笑顔に、コナンが顔をしかめて手を振り払った。
「オメー、探偵だろ?自分で当ててみな」
「………言っとくが」
見上げてくる真剣な目。キッドが好敵手だと認識している賢い少年は、キッドをひと睨みするとゆいなの去っていったほうを見て、優しく目を細めた。頭の回転がいいばかりに大人びている表情が、本来の高校生の顔になった瞬間だった。
「アイツは俺の大事な親友だ」
「……親友、ね」
「傷つけたり泣かせたりしたら、許さねえからな」
「んなこと、するわけないだろ。…じゃ、俺からもひとつ言っておくけどよ」
「なんだ?」
「ゆいなはぜってー渡さねえから」
ぴくり。コナンの眉が動く。
彼は一度キッドを見上げると、何も言わずにケータイを取り出した。
「え、なになに。警察にでも電話すんの?俺逃げたほうがいい?」
「バーロー。んな状況じゃねえだろ」
「じゃ、飛行船に戻るのか?」
「ああ」
電話の相手が出る。話の内容からして、どうやら西の名探偵らしい。飛行船に戻るといっても、こうしている間にも船はどんどん西へ向かっていく。探偵がどう出るかが見物だな、とキッドが思っていると、頭上で騒がしい音がした。
「警察のヘリだな…」
同じように見上げたコナンが、何か思い付いたように慌ててケータイを閉じて、蝶ネクタイを持ち上げた。
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