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砂浜に、すいっと滑らかに着地する。ゆいなは地面に足が着き、キッドの支えがなくなった途端、膝から崩れ落ちた。力が入らない。いつのまにか細かくがたがたと震える体に、ゆいなはただ力無く笑みを浮かべた。怖くなかったはずなのに、なんて体は正直なんだろう。

「ゆいな、大丈夫か?」

抱きしめたままのコナンが心配そうに、顔色を見ようとゆいなの前髪をあげる。それに答えようと口を開いた時、ふっと腕の中からコナンが消える。驚いて顔をあげると、不機嫌に顔を歪めて、暴れるコナンの襟首を掴んでいるキッドがいた。

「は・な・れ・ろ」

機嫌の悪さを隠そうともしない低い声。キッドはそのままコナンをひょいと投げると、ゆいなの前に膝を着いた。

「かい……キッド、」
「ゆいな、なんで飛び込んだんだ」

喧嘩別れのようになっていた気まずさに顔を反らそうとすると、白い手袋に頬を包まれる。真剣な瞳に見つめられて、ゆいなはなんだかいたたまれなくなってしまう。

「気がついたら…勝手に」
「勝手にってオメェなあ…俺がいなかったらどうしてたんだよ!」
「どう…なってたかな、えへ、へ、」
「笑いごとじゃねぇだろ!」

キッドが怒鳴り、ゆいなはびくりと体を揺らす。怯えたように見上げてくるゆいなに、キッドは目を逸らしてあーと唸ると、薄い肩を引き寄せて、彼女の頭を自分の胸に閉じ込めた。

「バーロー…、死ぬかと思っただろ」
「……うん、でも、助けてくれるって信じてた」
「あたりめーだろ。……違うんだ、俺の心臓が、止まるかと、思った」

ぎゅっと苦しいくらいに、抱きしめられる。ゆいなはたまらなくなって、彼にしがみついた。弱々しくごめんと言えば、キットが背中をぽんぽんと叩く。

「頼むから、こんな無茶、もうしないでくれよ。な?」
「……うん」
「ゆいな」

とびきりに優しく名前を呼ばれて顔をあげれば、予想外に彼の顔が近くにある。驚いて離れる前に、頭に手を添えられて身動きがとれなくなる。それでも今回はなんだか、避けるような気持ちにならなかった。ゆいながそっと目を閉じる。薄く彼の息がかかって、

「いってぇ!」

キッドが大声をあげた。
ぱちりと目を開ければ、キッドが脇腹を押さえていた。

「何すんだ名探偵!」
「は・な・れ・ろ」
「はあ!?」

どうやらコナンが彼の横腹に蹴りを入れたらしい。コナンの存在をすっかり頭から追い出してしまっていたゆいなは、自分たちが今しようとしていたことを思い浮かべて顔を真っ赤にして俯く。そしてはっと気がつき今度は真っ青な顔をあげた。

「し、新一!ちがうの!あの、私たち、えーと、」
「んだよ、何が違うんだよ。名探偵に弁解するようなことがあんのか?」
「ちょっとアンタはだまってて!」

自分たちの関係がバレる。こいつはこれがまずい状況だということがわからないのだろうか。ゆいなは頭が痛くなりながらも、なんとかごまかす手はないかと考えた。そんなもの、この名探偵にはあるはずがないのだが。それでもあたふたするゆいなに、キッドは頭をかいた。

「だーもう!俺はワザと見せ付けてんだからいーんだよ」
「みせつけ…っ!?」
「つーわけだから名探偵、ゆいなに手出すなよ」

これは俺のだから。
そう言いながら頬に当てられた唇にびっくりして、ゆいなはいつの間にか腰に回っていた手を、手袋の上から思いきり抓った。

「いって、なんだよ!」
「なんっですぐキスしようとすんの!?」
「はあ?」
「さっきも飛行船でも!」
「そんなの、オメーがかわいいんだからしょーがねーだろ?」
「……なっ」

けろっとした顔で首を傾げるキッドに、ただでさえ高かった熱が一気に急上昇する。ゆいなは赤くなった顔を両手で覆うと、いつの間にか奮えの収まった足で立ち上がった。

「ばっかじゃないの!?」

大声で叫ぶと、赤くなった顔が恥ずかしくて、ゆいなは慌てて背中を向けて、そのまま砂浜を早歩きで横断していった。

その後ろ姿をみながら、至極楽しそうに幸せそうにキッドが笑っていたことまでは気がつくことはなく。

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