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目に涙を浮かべて怯える子供たちが、コナンの後にラウンジに入ってきた。コナンが頭に銃口を向けられ、対峙する。鋭い眼差しが真っ直ぐ睨みあげられ、リーダー格の男が忌ま忌ましげに銃の狙いを額にあわせた。

「コナンくん!」
「……大丈夫だよ、ゆいなねえちゃん」

駆け寄ろうとしたゆいなだが、銃を向けられ制される。ゆいなはコナンが、新一が、危険にさらされている場面に立ち会ったことがなかった。いつもそうなる前に解決してしまうから。今は避けられもしない銃を突き付けられ、それでも強く顔をあげるコナンにただ恐怖で震えるだけだ。

「お前らがやったのか」
「こいつらは関係ない。やったのはボクだよ」
「ほう…いい度胸だな」

にやり。男が嫌な笑みを浮かべる。男は乱暴にコナンの襟首を掴むと、そのまま持ち上げた。よく毛利がやるような仕種。だけど状況がまったく違った。

「しん……っ!」

いち。
最後までゆいなの口が動くことはなかった。ぽっかりと頭の中が空になり、周りの音が何かに吸い込まれるように聞こえなくなる。ただ、彼の体が浮いた瞬間、言い知れない恐怖を感じて、足が動いて。
悲鳴があがった気がする。怒声も。手を伸ばしたのは、覚えている。

次に気がついた時には、空中を落下していた。

「うわあああああっ」
「コナンくん!ゆいな!」

コナンが悲鳴をあげる。上空から微かに自分達の名前が聞こえた。ゆいなは漸く事態を理解し、辛うじて掴んでいたコナンの服を引っ張った。自分が下になるように、両腕で抱きしめる。ゆいな、焦ったようにコナンが名を呼ぶ。落下による風の抵抗が、体を叩く。痛い。寒い。代わり映えのしない青を遮るように、ゆいなは目をつぶった。
落ちたら絶対に助からない。そんなことは分かっていた。それでも不思議と怖いとだけは思わなかった。

ある男の顔を、思い浮かべていたから。

「ゆいなっ!」

風の音を裂いて、声が聞こえる。うっすらと開けた瞼の向こうで、落ちてくる人影がみえた。

「手を伸ばせ!ゆいな!」

快斗。
呟いた声は、風にさらわれる。
ゆいなは片手でコナンを抱くと、快斗に向かって右手を伸ばした。風圧で、上手い具合に近づけない。何度か近づいては離れてを繰り返し、指先が僅かに触れ合った時、快斗ががっしりとゆいなの手を掴んだ。

「こっちに、」

そのまま引き寄せられ、両腕で抱きしめられる。コナンを離さないようにしながら、ゆいなは快斗の首に手を回した。
ほっと快斗からため息が漏れる。
雲の中に入りをつむった目を開けた時には、白い衣装に身を包んだ怪盗キッドが大空を滑るように飛んでいた。

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