「この飛行船は、我々赤いシャムネコがハイジャックした」
乗務員がダイニングに集められ、飛行船内は完全に制圧された。
赤いシャムネコは鈴木次郎吉に恨みをもっており、飛行船を大阪まで向かわせろと要求した。そのために船内に爆弾を仕掛け、殺人バクテリアを奪ったのだと言う。
あらかた、どこかに突っ込んで飛行船ごと爆発させるつもりだろう。赤いシャムネコと名乗る者たちがマスクを外すのを見ながら、ゆいなは考えた。顔を見せるということは、最終的に自分達を殺すつもりだから。
「…(どうしよう、新一)」
一番頭が回るコナンは、子供達を捜しに行っていてちょうど居合わせずにすんだ。彼等の無事と、コナンがこの状況がよくしてくれることを信じるしかない。そう考えながら立ちすくむゆいなに、中森がそっと近づいた。
「…ゆいなちゃん」
「おじさん、」
「喫煙室に入ったことは、言わないほうがいい。問答無用で喫煙室に閉じ込められる可能性がある」
「……はい」
「感染していないことを祈るしかないな」
「そこ、コソコソするな!」
男が叫び、銃を向ける。ゆいなは一歩中森から離れた。視界の端に、手の平を必死に掻く水川が入る。
「水川さん…まさか…!」
「な、なんでもない!」
話し声を不審に思った男に掴みあげられた水川の手には、発疹が広がっていた。それでも違うと言い張りながらも、大きく咳込む水川から、皆青ざめて離れる。水川に注意を逸らされている男たちを押さえようと蘭と中森がかまえた時、ガラスの割られる音が響いた。
次郎吉を連れてスカイデッキから戻ってきたリーダー格の男が発砲したのだ。水川は気絶させられ、喫煙室に連れていかれた。
「(喫煙室に入った人がみんな感染してるんだから…私も…)」
ゆいなは手の平や腕が赤くなっていないか念入りに確認した。どうやら発疹は出ていない。まだ。恐怖からかどくどくと血の巡りがよくわかる。ゆいなはぎゅっと目をつぶった。
「そういえば、子供たちがいないんじゃない?」
ぱっと目を開ける。西谷と石本の言葉に、男が出ていく。まずい。振り向けば、阿笠に隠れて探偵バッヂで連絡をとる哀が、
「……っ、哀ちゃん!」
「え」
「シャレたことしてくれるじゃない」
近づいて来たウエイターに警戒し叫んだ途端、耳を塞ぎたくなるような音が響き、哀の体が宙を跳ぶ。慌てて駆け付けて、打たれた頬の様子をみる。赤く腫れあがってしまっている。
「あなた…アイツらの仲間ね」
「ふっ、今度妙なマネしたら、殺すわよ」
これで、コナンたちとの連絡手段が完全に途絶えてしまった。
なんとか見つからずに、無事でいて。
ゆいなの願いも虚しく、最後の希望であるコナンが銃を突き付けられてラウンジに入ってきたのは、その数分後。
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