07



「……どこ行ってたんだよ」

ベッドから、不機嫌な声。
快斗が部屋に戻ると、布団からコナンが顔を出してこちらをじとりと見つめていた。
どこ、と聞きながらも理由が分かっている顔だ。

「オメーの思ってるとおりだよ」
「……困らせてねえだろうな?」
「当たり前だろ。ホント過保護だなーおまえ。てゆうか、あの子と付き合ったんならもういいだろーが」

ゆいなと俺のことに口を出さないでくれる?

う、と言葉を詰まらせるコナンは意外だった。
それとこれとは別だ、と歯切れ悪く言う。

「大事な幼馴染だって言っただろ」
「まあ…俺にも幼馴染はいるから、気持ちが分からなくもねえけど…」

快斗は、幼馴染の姿を思い浮かべた。たしかに、あいつがどこの馬の骨とも分からない奴と突然付き合い出したら、相手の男に噛み付くかもしれない。いや、下手したら殴る。

「そういや、オメー、ゆいなには自分から工藤新一だって正体明かしたのか?」
「いや。速攻でバレた」
「え?」
「あいつのああいう勘、こわいんだよな…」
「あー…」

快斗もまさに同じだった。
"快斗でしょ?私が間違えるわけないよ"
はじめて怪盗キッドとして相対した時に、真っ直ぐな目で言われた言葉。正直、負けた、と思った。彼女のあの真っ直ぐな瞳に、NOと言えるわけがない。嘘をつきたくない、と思ってしまった。それと同時に、本当の自分のことを、彼女だけには知っていて欲しい、とも。

「(そっか、名探偵も同じだったんだな)」
「なんだよ、にやにやして…」
「いや、やっぱ俺たち似てるなと思って?」
「気持ちわりーこと言うなよ…」

迷惑そうにコナンが顔を顰めるのが面白くて、快斗はそんなこと言うなよなーと笑う。

「なんにせよ、色々と頼むぜ、名探偵」
「…わーったよ。今回だけだからな」
「まずは明日に備えてしっかり寝ないとな!おやすみ!」
「……おやすみ」

律儀に返事をしてから布団を頭まで被ったコナンに、快斗は思わず笑ってしまう。まさかこのライバルと同じ部屋で寝ることがあるとは考えてもみなかった。この部屋にはもともと、新一としての持ち物しか置いていなかったが、それを詮索した様子もない。

「(まあ、詮索が無意味だって分かってたんだろな)」

やっぱり面白い奴だな、と快斗は微笑んだ。


翌朝、ホテルから一緒に行動するのはまずいだろうということで、大会会場であるスタジアム前で合流したコナンは、やけにどんよりとした顔をしていた。目の下に薄い隈がある。

「新一、どうしたの?」
「いや…なんでも」
「あ、もしかして…キッドのいびきで寝れなかった?時々ひどいもんね…」
「………っ、おま、」
「おーいゆいなちゃーん、アーサーくん困ってるから、」

俺との惚気はほどほどにな。
新一もとい快斗に耳元で囁かれて、数秒後にコナンが顔を赤くしている理由を理解する。先程の発言は、普段から一緒に寝ていると言っているようなものじゃないか。
なんとか弁明しようとするも言葉が出て来ず、行き場のない恥ずかしさを、快斗の肩を叩くことで発散する。叩かれてもニヤニヤしている快斗に余計に顔が熱くなる。

「ゆいな、新一!中入るよー!」

たすかった、蘭の呼びかけにゆいなは彼女の元に駆け寄る。後ろで快斗とコナンが小声で何やら話しているが、気にしない。

「かわいいだろ?俺の彼女」

コナンに何を言ってるんだ!と叫びたくなったが、聞こえなかったふりをする。俺の彼女だってかわいい、とコナンの声が聞こえた気がして、思わず会話に参加したくなったけれどそこも我慢。本当、いつのまにそんなに仲良くなったんだ。

「ゆいな、顔赤いけど大丈夫?暑い?」
「大丈夫……蘭、ほんとおめでとう…」
「なにが?」
「はやく!試合始まっちゃう!」

園子に急かされて、スタジアムの検問所を抜ける。
紺青の拳をめぐる試合が始まろうとしていた。



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