05



「え?京極さんが、レオンさんの家でトレーニング?」
「そうなのよ!一緒にインフィニティプール入りたかったのに」

でも仕方ないわよね、と笑う園子。
姿を見かけないと思ったら、トレーニングルームが充実してるからと誘われて、レオン邸に行っているというのだ。
ゆいなは思わず、隣にいたコナンに目を向けた。無言で頷くコナン。

「ゆいなは行くでしょ?プール」
「ごめん、私、アーサーくん家に送っていく約束したから…」
「なに、あんた一人で帰れないの?」
「うーん、暗いところ怖いから、ゆいなお姉さん一緒に来て欲しいな…」

コナンがぎゅっとゆいなの手を握る。それならタクシーを、と提案してくれた園子をなんとか説得して、ゆいなはコナンと共にホテルを出た。

夜のシンガポールは想像していたよりずっと煌びやかで活気がある。海外の夜の街を歩くのは少し不安だったが、コナンが一緒だというだけで心配はなかった。

「だめだ、電話でない…」

ゆいなはため息をついて、通話終了ボタンを押す。快斗の携帯は何度かけても繋がらない。
快斗は、レオン邸に京極がいることを知らないはずだ。嫌な予感がする。

「大丈夫なのかな…」
「ライバルの京極さんをわざわざ呼んだ、ってことは、今日キッドが来ることを見越してるんじゃねえか?」
「新一もそう思う?あの人、なんか怖いんだよね…」
「怖い?レオンさんが?」
「実はね、さっき……」

ゆいなは、レオンとした一連のやりとりをコナンに伝える。怪訝そうに話を聞いていたコナンの出した結論も、キッドと同じく「近寄るな」だった。

「ゆいなは昔から妙に鋭いくせに、トラブルに巻き込まれるタイプだからな。まあそもそもキッドといる時点で避けられねーだろうけど」
「……え?それ、新一が言う…?」
「………」

あー、と言い淀むコナンは、彼と一緒にいたことで起こったこれまでのトラブルを思い出しているようだった。新一の時もコナンになっても、事件に首を突っ込みにいく彼に、トラブルに巻き込まれやすいと言われたくはない。

「まああれだ、何回も言ってるけど、俺はオメーがキッドと一緒にいること、認めてねーからな。今までだって、危険なことばっかり巻き込みやがって」
「……新一」
「まあ、今回は仕方ねえから、アイツのピンチくらいは助けてやるけどよ…」
「…ありがとね。ほんとごめん…これ、キッドから…」

ゆいなは、快斗から預かっていた阿笠博士の道具たちが入ったトートバッグをコナンに渡した。
これを渡してくれということは、つまり、助けてもらうことを見越した前準備である。
コナンは大きくため息をつくと、袋から取り出した眼鏡をかける。いつもの見慣れた姿だ。

「レオンさんの家が見渡せるところに行こう」


ゆいなとコナンは近くのホテルの屋上から、レオン邸を見下ろしていた。今回は、エンジン付きのハンググライダーを準備してきたと聞いたから、逃走経路は空のはず。ゆいなは双眼鏡で、コナンは眼鏡で中庭の様子を伺う。快斗の言っていた予定時間から、少し押している。

「やけに静かだな…」

コナンがつぶやいた時、けたたましく警備の音が鳴り響いた。慌ててキッドの姿を探そうとした途端、中庭が煙幕で包まれた。キッドが撒いたものだろうか。白い衣装だから余計に見えない。

「新一、見えてる?」
「……いや…あ、庭の中央だ!京極さんがいる!」

双眼鏡をそちらに向けると、煙幕が人の動きで揺れ、かすかに二人の人影が見えた。煙の動き方から、大きく動いている様子がわかる。

「もしかして、闘ってるの!?」
「みてーだな…」

カチ、と音がしてコナンを振り向くと、ベルトからサッカーボールを出したところだった。スニーカーのダイヤルを回しながら、コナンがつぶやく。

「京極さん、ごめん」

ガッと大きな音出して、サッカーボールが宙を切る。相当な距離があるにもかかわらず、蹴り出した勢いのまま京極の背後に届いたボールは、振り向いた彼の正拳突きにより空中で勢いよく破裂をした。ゆいなはぽかんとその様子を双眼鏡でのぞいていたが、さらに飛び出した鳥のような影に声をあげた。

「あ、キッドが脱出できたみたい!」

ほとんど無風だが、自由に飛んでいるように見えるのは、彼の言っていた新しいハンググライダーだろうか。ゆいなはほっとして、双眼鏡を降ろした。

「ありがと、新一」
「まあ、あいつが捕まったら俺が帰れねえからな…」
「話には聞いてたけど、京極さんって本当にすごいんだね…」

コナンが脚力を増強させて蹴り出すボールは、建物を破壊する威力すらあるのに、それに拳で対応するなんて。キッドが対峙したくないと言っていた理由がよくわかった。

「大丈夫そうだし、ホテル帰ろっかーーわっ!」

突然強い風が吹いたかと思うと、何かに引っ張り上げられる感覚。視界が暗転して、思わず目を閉じると、「ゆいな、しっかり捕まってて」と聞き慣れた声に驚いて目を開ける。

「かい、…キッド!」
「動くなよ、名探偵が落ちる」

キッドに横抱きにされ、空を飛んでいる状況だった。ゆいなの腕の中にはお腹に乗るようなかたちでコナンがいて、自分が手を離したら落ちてしまうのだと理解し、慌ててぎゅっと力を入れ片腕をキッドの首に回した。以前に飛行船から落ちた時も、この組み合わせで空を飛んだことがあったな、と思い出す。
あの時の落下していくコナンのことを思い出して、思わずコナンを抱く腕の力をさらに強めた。

「おい、ゆいな、あんまり力いれんな…」
「わ、ごめん、苦しかった?」
「いや、そうじゃねーけど、なんつーか、」
「おい名探偵!あんまりゆいなにくっつくなよ!」
「どうしろと」
「ちょっとキッド!あんまり揺れないで、こわい!」

ぎゃあぎゃあと3人で騒ぎながらも、飛行が安定したところで、キッドがふうとため息をついた。

「それにしても助かったぜ!念のため、装備を返しておいて正解だった」
「助けたくなんかなかったけどな」
「新一がいなかったらやばかったね。てゆうか、キッド濡れてない…?」
「…散々な目にあったんだよ」
「そんなことより、そろそろ教えろよ。俺を連れてきた本当のワケを」

ゆいなとキッドの会話を遮り、風の音に負けないようにコナンが大きな声を出す。
キッドは意味ありげに笑ったあと、ハンググライダーの高度を下げた。



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