03
ゆいなは困惑していた。
先程は、驚いた勢いで普通に会話をしてしまったが、コナンとキッドの二人を前にするのは初めてではないにしろ、この組み合わせは振る舞いに困ってしまう。
キッドはキッドらしく振舞うことを完全にやめているし、コナンも新一として話をしている。
以前、飛行船で一緒になった時も二人はそうだったが、それよりも仲が良くなっているように感じるのは気のせいだろうか。まるで普通の男子高校生同士のような。
「二人とも、いつのまにそんなに仲良くなったの…?」
「「仲良くねーよ!」」
「ええ………?」
さらに困惑。
ゆいなとキッドの関係をコナンが知っていることは承知だが、だからといって快斗として接するのはまずい。ライバルだけど敵じゃない、といったところなのだろうか。
固まったままじっと押し黙るゆいなを見上げて、コナンがふっと息をついた。
「……安心しろよ、ゆいな。今ここでキッドの正体を問い詰めるつもりはねーから」
「俺が捕まったら、帰れなくなっちゃうからなー」
「うるせーな!まあ、前も言ったけど、泥棒は現行犯じゃないと意味ないしな」
「……よく私が考えてること分かったね」
「たりめーだろ、顔に出てる」
コナンが笑ったのにつられて、ゆいなの表情も柔らかくなる。この小さな探偵は、本当に昔から鈍感なのか鋭いのか分からないところがある。ゆいなはコナンの頭を撫でようと手を伸ばしたが、その前にキッドがコナンの両脇に手を入れて、ひょいと持ち上げ、空のスーツケースの上に座らせた。
「アーサーくん、ナンパはだめだぞ〜」
「うっせーな」
「俺のだからな!」
「はいはい」
「(やっぱり仲良し…)」
なんだか不思議な関係性に、ゆいなはひとまず仲良しという括りをすることで納得をすることにした。よく言う好敵手というやつなのだろう。そういうことにしておこう。
京極真という人物に、ゆいなは初めて対面した。
蘭の空手の応援で見かけたことはあったが、面と向かって会話をするのははじめて。
絡まれている園子を助けた姿は圧巻で、もうすでにチャンピオンかのようなオーラがある。
先日、キッドが直接対決をした際の話を聞いていたので、柱を拳で破壊するなど、どんなにか恐ろしい人物なのだろうと思っていたら、話してみると礼儀正しく純朴な印象で、キッドのキザさに惚れ込んでいる園子が好きになったのが少し意外でもあった。
「工藤新一です、はじめまして」
しれっと挨拶をするキッドに、京極が不思議そうに首をかしげる。
「どうしたの?」
「いえ…工藤くんとは、初めて会った気がしなくて…」
「……!」
びくりと震え上がるように肩を震わせたキッドに、コナンと顔を見合わせて苦笑した。必死に取り繕う姿は、よほど怖い思いをしたのだろうと分かる。
「……バレたら殺されそう」
小さく呟いたキッドに、少し同情をするゆいなとコナンだった。
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