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「わりー!遅れた!」

聞き覚えのある声にびっくりして振り向くと、パスポートを右手に掲げながら、こちらに走ってくる姿。
遅れたと言いながら、飄々と余裕な様子で走ってくる彼に、隣の蘭が文句を言う。
シンガポール行きの飛行機の到着を待つロビー。
久しぶりだな、と笑った工藤新一の腹に、ゆいなは無言で拳を入れた。

「いっ…てえ!」
「この、ばか!」
「ゆいな、そんなに怒らなくても…新一ちゃんと間に合ったんだし、ね?」
「………蘭、新一来るって言ってたっけ?」
「あれ、言ってなかった?コナンくんこれなくなっちゃったから、ダメ元で誘ったの」

ほらな、と余裕な笑みを浮かべてゆいなを見下ろす新一、いや、快斗をゆいなはキッと睨み返した。これはゆいなが知らなかったことを見越していた顔だ。

シンガポールで行われる空手の大会に出場する、園子の彼氏の京極真を応援するために、ゆいなもシンガポールに行くことになったと話をした時に、優勝ベルトの宝石のことは聞いていた。こっそり移動するものだと思っていたのに、さすがというか、ちゃっかりしている。

丁度、搭乗のアナウンスが入る。もう今更どうにもならないタイミングをみて、彼は遅れてやってきたのだ。

「…他に方法がねーだろ?俺が顔を変えずに化けれるのはこいつだけだし」
「……そんなこと言って、面白がってるだけでしょ」
「いや、今回はそれだけでもないんだな」

快斗は、なぜか持っている白いスーツケースを軽く叩いた。手荷物で持ち込めるギリギリのサイズだが、なぜ預けてしまわなかったのだろう。

「2人とも、もう乗るわよー!」

手を振る園子は、久しぶりに京極に会えるということで、オシャレにも気合が入っていてとても可愛い。ここで快斗を問い詰めて混乱させても、彼女の楽しみを奪ってしまうことになりかねない。ゆいなはため息をついて、搭乗券を取り出した。

「くれぐれも蘭には…」
「わーってるって!」
「…ちゃんと距離感考えて接してね?」
「なに、ゆいなちゃんヤキモチ?」
「………」

にま、と笑う快斗のお腹をつねる。
先日の修学旅行で蘭と新一が付き合い始めたから、2人の距離は今までとは違うはずだ。

「(快斗が蘭といちゃいちゃしてるとこ見たくないし…)」

蘭には悪いけど、コナンもいないし、ゆいな自身がしっかりしなければ。

「シンガポールで美味いもん食べような!」

呑気ににっこり笑う快斗に、またため息が出るのだった。



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