07
飛行機が爆破されたことにより、日本に憧れたひまわり展への協力を渋る声が所有者達から次々とあがっているとのこと。このままでは開催が危ういのだと園子から聞いた。
もしかしたら、キッドは開催をとりやめさせたいのかもしれない。でも、何のために?
「(快斗から、まだ連絡がこない……)」
俺を信じて。
快斗はそう言った。もちろん信じている。
何か言えない理由もあるのだろうと想像は出来るものの、相変わらず全てを教えてくれない彼に、ゆいなは痺れを切らしそうだった。
スコーピオンという暗殺者に狙われた時だって、飛行船でテロに巻き込まれた時だって、彼は何も教えてくれなかった。そして、また。
ゆいなは、損保ジャパン日本興和でひまわりを見つめていた快斗の表情を思い出していた。悲しげに何かを考える横顔。悲しい想像をしていた、と彼は言った。あそこに何かヒントはないだろうか。
「あー!!ゆいなお姉さんだ!」
美術館のチケットをきってもらったところで、後ろから女の子の声が響いた。歩美ちゃんをはじめとする少年探偵団と阿笠博士が列に並んでいた。驚いたことに、コナンもいる。
「コナンくんは次郎吉さんの会議に出ないの?」
「うん、みんなとひまわりを見る約束してたから」
「お姉さんもひまわり見に来たの?一緒に見よう!」
「うん、いいよ」
やったー!と可愛らしく喜んだ歩美ちゃんに手を引かれて展示室に入る。わあ、絵がいっぱいだ、とはしゃぐ子供たちに、阿笠博士が人差し指をたてる。
どんどん先に進む彼らから少し距離をとったところで、コナンが隣に並んだ。
「ゆいな、あれから何か分かったか?」
「………ううん。新一は、なんでここに来たの?」
「ここに展示されている5枚目のひまわりに、何かヒントがないかと思ってさ」
「私と一緒ね」
展示室を進むと、最後の部屋にひまわりが飾られている。子供たちがわっと声をあげて駆け寄る。絵の前に置かれたソファには、あの日とおなじ老齢の女性が座っていた。
あんまり大きな声を出したらだめよ、と子供たちに注意をし、ゆいなは彼女に声をかけた。
「こんにちは」
「あら、こないだの模写をしていたお嬢さんね。彼は今日は一緒ではないの?」
「はい…」
「……喧嘩をしたのかしら?」
思わず浮かない顔をしてしまった。ゆいなは首を横に振ると、ふいにあの日快斗ときいた、彼女の言葉を思い出した。
「そういえば、以前お会いした時、これとは別のひまわりに思い出があるとおっしゃってましたよね」
「ええ…」
「ひまわり展が開催されるのはご存知ですか?」
「ええ、行くことができたら、嬉しいわ」
老婦人は、悲しげな目をしたまま、ひまわりの絵をじっと見上げる。
園子に頼んだら、彼女も招待してあげられないだろうか。
毎日ひまわりを見に来ている理由が、ゆいなには後悔からくるもののように感じられた。それでも昇華されない、強い想いなのだろう。
「お嬢さん、もし彼と喧嘩をしたのなら、早く仲直りしないとだめよ」
「え?」
「想いを届けられるうちに、ね」
ゆいなは、スコーピオンという暗殺者に彼が撃たれた時のことを思い出した。
無事だとわかった時に、伝えたいと一番に思ったことは「好き」だとう自分の気持ち。
もしあのまま、伝えられないまま、彼との別れを迎えていたら。いつだって、快斗は率直に気持ちを伝えてくれるのに、自分はあまり口にできない。そのことを、後悔してしまうところだった。
もしかして、彼女も同じ、
「よかった、まだ無事みたいだな!」
ぞろぞろと大勢の足音がして振り返ると、毛利をはじめとする侍たちと、鈴木次郎吉、中森警部が集まっていた。そのメンバーを見て、すぐにピンとくる。コナンが「まさかキッドが?」と声をあげた。
彼らの表情をみて、その予想は的中のようだった。
ゆいなはひまわりを見上げる。キッドの次の目的はこのひまわりということか。
「(どうして、宝石じゃない絵画にそこまで…?)」
「そうじゃ、彼奴が次に狙うのは、」
「鈴木相談役、ここでそう言った話は…お客様のご迷惑になるので、お話は応接室でお聞きします」
「僕も行っていい?」
「もちろんじゃ!」
「わ、私も、だめですか?」
ゆいなは考える前に声をあげていた。
その場にいる全員の視線が集まる。ぎくり、と体が震える。キッドキラーと呼ばれているコナンならまだしも、ただの女子高生が、と思われているのだろう。案の定、中森が困ったような顔をした。
「ゆいなちゃん、危険だから今回は、」
「いや、いいだろう!前回ひまわりを守ってくれた恩人じゃ。今回も期待しておるぞ!」
寛容な二郎吉に許可をもらい、ゆいなも応接室へと招かれる。
「……ゆいな、」
「分かってる。新一の側にいるようにする」
「ああ、キッドがオメーに危害を加えることはないだろうけど、念のためな」
「………うん」
コナンの言葉は、ゆいな以外には危害を加える可能性があると言われているようで、苦しかった。
信じてる。信じているから、はやく、はやく彼の言葉で、本当のことを教えてほしい。
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