06



ひまわりは幸いなことに、多少汚れていただけで、修復の必要はないということだった。あのまま炎天下に置かれていたらただでは済まなかった、という言葉にゆいなは確信を覚える。キッドが芸術品をそんな粗野に扱うはずがない。それを大きな声で主張できない自分が、情けない。
自分は怪盗キッドの仲間ではなく、ただの傍観者なのだ。何より快斗本人が、ゆいなにそうあるように望んでいることを、ゆいなはよく理解していた。

ひまわりは今日のうちに鈴木邸に運んで、金庫に保管することになった。ゆいなは一向に鳴らない携帯をちらりと見る。わかってはいたが、あれ以降着信はない。ため息をついて視線を落とすと、いつの間にか足元から見上げていたコナンと目が合う。

「大丈夫か?」

彼は、ゆいなとキッドの関係を知っている。知っているうえで、何も聞かない優しさが、ゆいなには時々つらくもあった。
宿敵と認め合う彼等の間に、自分の関わる隙はない。所詮は除け者なのだと。キッドからもコナンからも、無関係でいてほしいと望まれているのだと。

「……新一は、今回のことどう思ってる?」
「……まだなんとも」
「キッドは、人の命を危険に晒すようなことは、しないよ」
「………」
「……って、この状況で言っても説得力ないかな」
「オメーの気持ちはわかるけど、今回は関わらないほうがいいと思うぜ」
「…なんで?」
「いつもと様子が違いすぎるし、それに、あのチャーリーって刑事…」

コナンがこっそりと後ろを覗き見る。先程ゆいなが突っかかった刑事が、鋭い目で辺りを警戒していた。一瞬目が合ってしまい、ぞっとして慌てて逸らす。

「……容赦なさそうね」
「だろ?拳銃は所持出来ないからしてねえだろうけど、ゆいなのことが分かったら、どう出るかわからない」
「………わかった、気をつける」
「まあ、オメーが大人しく家で連絡を待つタイプじゃねーのはよく分かってるけどよ」
「うん…自分の目で確かめないと、納得ができない。それに、やっぱり私も嫌な予感がするよ。何かおかしい」
「ああ……」

爆発を起こしたのがキッドでないとすると、必然的にあの飛行機の中か、もしくは次郎吉の周りの人間が仕掛けたということになる。
しかしゆいなにも、コナンにでさえ、何一つ手がかりのない状態で事の予想ができるはずもない。
きっと、これで終わりではない。だから、キッドも連絡をしてこないのだ。

「わたし、やっぱりキッドの味方でいたい」

傍観者でいるのを望まれてるのは分かってる。それでも、何か、少しでもいいから何か出来ることがしたい。

そう言うと、コナンは複雑な顔をして、それから諦めたようにため息をこぼした。

「……オメーってほんと、アイツのこと…」
「ゆいなー!ゆいなも金庫見にくるでしょ?」
「うん!行く!…新一、なんだった?」
「いや…とにかく、オレの側を離れるんじゃねーぞ」
「うん、ありがと」

ゆいなは微笑んでコナンの頭を撫でると、鬱陶しそうに手を払われる。本当に頼りがいのある小学生だ。はやく、と呼ばれるままに園子にかけよると、残されたコナンがぽつりと呟いた。

「……頼むから、手の届かないところに行かないでくれよ」


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