05



コナンに言われたとおり、ひまわりのことを次郎吉に伝えると、よくやったと過剰に褒められてしまった。

「いや、これはコナン君が…」
「新一兄ちゃんとキッドを追いかけてたときに、隠すのを見たんでしょ?ゆいな姉ちゃんすごーい!」
「……まあ、そんなところです」
「そうかそうか!何にしろ二人ともよくやった!」
「相談役、私たちはすぐにひまわりに傷がないか調べます」
「ああ、頼む」

屋上から下ろしたひまわりは、例の飛行機の爆発の煙を浴びたのだろう、黒く汚れてしまっていた。鑑定士たちが急ぎ可能な限りの備品をあつめ、難しい顔をしてひまわりを取り囲む。

「それで、その高校生探偵とやらはどこに行ったんだ?キッドが現れた時にいつもいないなんて、まるであの少年が怪盗キッドと言っているようなものではないか」

チャーリーと名乗ったニューヨークの警察が、厳しい目でゆいなたちを睨んだ。ぎくり、コナンが肩を揺らす。新一がキッドだったと説明をするべきなのか、しかしそうすると更にややこしいことになりそうで、困ったゆいなはコナンを見る。彼が口を開く前に、蘭がケータイを開いた。

「その可能性はないと思いますよ、ほら」
「ほんとだ!ちょうどキッド様がさっきの写真を撮られた時間に、新一くんから着信がはいってる」

写真というのは、ひまわりを抱えたキッドが空港の上を飛んでいる写真だった。これで、飛行機に乗っていた新一が本物だったということになってしまった。申し訳なくてコナンを見れば、同じことを考えていたのか呆れたように笑っている。蘭の証言により、納得がいかないというような顔はしているが、チャーリーは一応引き下がった。

「それはともかく、問題はどうしてキッドがこの空港を通っていったかだ」
「自分の爆破した飛行機がどうなったか気になったんだろう。殺人鬼は何食わぬ顔をして現場に戻ると言うしな」
「なっ…!」

ゆいなは思わず声をあげそうになったが、コナンが自分の服を掴んだことにはっとして口を噤んだ。やめておけ、と言われているようで、ゆいなは悔しさを押し殺して目を伏せる。かわりに園子が眉を吊り上げて、チャーリーを正面から睨んだ。

「ちょっとアンタ!キッド様を殺人鬼なんかと一緒にしないで!」
「目を覚ませ。お前も奴に殺されかけたんだぞ」
「……っそれは、」
「…でも、キッドならあんな事故を起こさなくても、盗むことは出来たと思いますけど」

止めてくれたコナンに悪いと思いつつも、やはり黙っているのは難しかった。この場にキッドを擁護してくれる人は、園子だけだ。しかも彼女は、ファンとしてキッドのことが好きなだけ。味方など誰一人いないのに、それでもゆいなは彼が悪く言われるのが耐えられなかった。

「随分と奴を高く買っているようだが…ファン心理で現実が見えていないようだな」
「…っ、キッドは人を傷付けるようなことはしませんよ。いままでも、これからも」
「なぜお前がそれを言い切れる?奴が裏で何をしているかなどわからないだろう」
「それは………」
「それとも、何か知っているとでも?」

はっとして、ゆいなは唇を噛んだ。
鋭いチャーリーの視線が痛い。これ以上は自分のためにもキッドのためにも良くないことは、冷静さを欠いている頭でもわかったため、ゆいなは力なく首を横に振った。園子がゆいなの手を取り、チャーリーに向かって舌を出す。

「キッドが飛行機を墜落させるようなことをするなんて、認めたくはないんだがなあ…」

中森のぼやきに、それ以上追求する者はいなかった。

「(くやしい…)」

怪盗キッドがあくまでも犯罪者だという現実を、ゆいなはあらためて突きつけられた気がしていた。どれだけ人気があってファンがいて、たとえ誰かを助けたとしても、盗みという犯罪をしてしまっている時点で、こんなふうに簡単に悪役呼ばわりされてしまうことが、たまらなく悔しい。
自分は彼の味方だと、胸を張って言えないことが、ただひたすらもどかしかった。


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