04
抱きしめたコナンの体からふっと力が抜けた。ぽんぽん、と背中を叩かれ、そっと薄く目を開ける。
「とまったぜ…」
止めていた息を吐くような安心しきった声におそるおそる窓の外に目をやると、本当にギリギリのところ、窓ガラスから1メートルもないだろう距離で、飛行機がとまっていた。目の前で煙を上げる飛行機の圧力に、ぺたん、とその場に座り込む。あと少し止まるのが遅かったら、今頃自分たちは瓦礫の下だ。コナンを抱きしめたまま事態が飲み込めず呆然としていると、彼は小さい手で、安心させるようにゆいなの頭を撫でた。そこではっとして、彼の目を見るために、抱きしめていた手を緩める。
「……っ、新一!わたし止めたよね!?危ないよって!あとちょっとで死ぬとこだったよ!?」
「オメーこそ、なんで着いてきたんだよ」
「それは……新一が急に走り出すから!」
「ったく、こないだの飛行船の時もそうだけど、もう少し考えてから行動しろよ!オメーが怪我なんかしたら俺、」
「二人とも!大丈夫か!」
ゲートに響いた毛利の声に、二人はすぐに口を噤んだ。高校生と小学生が同等に言い合っている光景は色々とまずい。ゆいなは一度力任せにくしゃくしゃとコナンの頭を撫でて、立ち上がろうとして足に上手く力が入らないことに気付く。
「まったく君たちはまた勝手な行動を…!」
「ごめんなさい…」
駆けつけた毛利と中森に、助け起こされて、ゆいなはなんとか立ち上がった。
「おいおい、それにしてもギリギリだな…」
改めて飛行機を見上げると、片方の翼から炎があがっていた。ゆいなはぞっとした。自分たちが助かっても、飛行機の中はわからない。園子たちは、そして、いるはずのキッドは大丈夫だろうか。
「中森さん、はやく園子たちを…!」
「大丈夫だ。いま救助が向かっている」
「あ!あれは…!」
コナンが飛行機の上空の何かに気付き、突然走り出した。
「キッドがひまわりを持って飛んでる!」
ゆいなは慌てて窓にかけより、頭上を見上げた。高度が高くてわからないが、確かにあの白い影はキッドだ。無事であったことに安堵しつつも、ひまわりを持っているということに疑問を覚える。
それではまるで、キッドがひまわりを盗むために飛行機を爆破したように見える。
「(そんなことぜったいない!)」
人の命に関わるようなことを、彼がするはずがない。きっと何か理由があるはず。
深く考えるよりまず先に、ゆいなは走り出した。コナンが向かった先は分からないが、キッドが空にいるということは、とにかく高い場所に向かうべきだ。非常階段ならば屋上まで繋がっているだろうと踏み、角を曲がったところでコナンと鉢合わせる。
「ゆいな!またお前…!」
「キッド追いかけるのは危険じゃないでしょ!?」
「…いや、そうとは限らないぜ」
「…!飛行機爆破したの、絶対にキッドじゃない!」
コナンは複雑そうな顔で、何も言わず小さく頷いた。キッドの真意を掴みきれていないという表情だった。それはゆいなも同じだ。だが、彼が他人を傷付けることは絶対にないと、それだけは言い切れる。
「とにかくここで待ってろ!」
「ちょっと、新一、」
コナンはゆいなの制止をすり抜けまた走り出した。ゆいなも追いかけるが、非常階段前にいた警備員に止められる。子供のコナンはその脇をすり抜け、あっさりと外階段へ出てしまった。こういう時、子供の姿とはずるいものだ。警備員がコナンを追いかけ階段を逆方向に下っていったのを見て、ゆいなはすぐさま屋上へと向かう。その時、頭上で何かが破裂するような音が響く。見上げると、空中で炎が上がっていた。
「ちょっと、何やってるの…!」
慌てて階段を上がろうとしたとき、ポケットの携帯が震えた。発信者を見て、慌てて通話ボタンを押す。
「快斗!?」
『オメーあの名探偵に言っておいてくれよ、あんな殺人ボール、本気で俺を殺す気かって……』
「やっぱりさっきの爆発…ねえ、何が起こってるの?」
『話はあとだ。ゆいな、ちょっと急ぎで頼みがある』
「え?」
『ひまわりを向かいの屋上に置いてある。あの探偵ならすぐ気付くと思うけど…あんま外に放置していいものじゃねーから、時間がかかりそうなら、オメーが見つけて返してくれ』
「え?わたしが?どういうこと?」
『……今は詳しく話せねえんだけど…とりあえず俺を信じて』
彼の言う信じるという言葉が、今回のことすべてを意味していると察し、ゆいなは頷く。
もともと欠片も疑ってはいない。ただ、彼が何か危ないことに巻き込まれてるのではと心配なだけだ。
「ねえ、ひまわりを盗むのが目的じゃないなら、いったい何が、」
「ゆいな!居るか!?」
上からコナンの声がして、ゆいなは慌てて通話を切った。
「向かいの屋上に、キッドが隠したひまわりを見つけた!早く回収しねーと傷んじまうから、次郎吉さんたちを呼んできてくれ!」
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