03
「…私はなにも知らないよ、新一」
「わかってる」
俺だったら、オメーを巻き込みたくないから、絶対に言わねーよ。
コナンが呟いた言葉に、ずきんと胸が痛む。電話を控え、メールで取ろうとした連絡も、やはり返ってはきていない。園子の話だと、あの後キッドはダミー人形を使い姿を消したらしいが、それなら何故連絡をくれないんだろう。
怪盗キッドがひまわりを狙っている、というのはすぐに国中の騒ぎになり、7人目の侍と称された毛利のところにもすぐに話が来た。プライベートジェットで、侍たちとひまわりを乗せて帰国するらしい。キッドが狙うならば、飛行機から運び出す時が危険だということで、毛利と中森警部が空港で待ち受けることとなった。
「へえーこれに乗って帰ってくるんだねー」
コナンが覗き込んだ写真には、ひまわりの写真にでかでかと「日本に憧れたひまわり展」と文字の入ったラッピングのされた飛行機。まったく忍ぶつもりのない様子だ。
なんでこいつが、とため息とともに放り出されたコナンに、蘭が苦笑する。
「仕方ないでしょう。次郎吉さんがコナン君も一緒にって。なんたってコナン君は、キッドキラーなんだから!」
「はは…」
「私こそ、ついてきてしまってすみません」
話を聞いてしまったゆいなは居ても立っても居られなく、思わず蘭に頼んで連れてきてしまってもらっていた。
「キッドだから大丈夫だとは思うが…もし危険なことになったら、すぐに逃げるんだよ」
「はい」
青子の父親である青森警部の言葉に頷く。
ゆいなはこの飛行機に、キッドが乗っているのではと踏んでいた。変装をしているのなら連絡がとれないのも納得だ。だが、なんだろう、胸騒ぎがするのは。どうしても、家でおとなしく待っていることなんてできなかった。普段狙わない絵画に関わっているという時点で、いつもと違う事件が起こっているのではと思ったのだ。
「あ、園子ー!…うん…え?」
蘭のケータイが鳴る。相手は飛行機の中の園子のようだ。もうすぐ着陸する時間だ。
「新一が一緒に!?」
その言葉に、はっとコナンと顔を見合わせる。すぐにコナンは駆け出して、蘭の手からケータイを奪った。
「わ、コナンくん、」
「園子姉ちゃん!そこに新一兄ちゃんがいるの!?」
キッドだ。そうか、変装対策を徹底している次郎吉の目を潜るには、マスクを使わずに変装できる新一の姿を借りるのが一番手っ取り早い。しかし、コナンがこの場にくることを分かっていて、わざわざすぐにバレる変装をするなんて。
その時、電話の向こうで大きな音と、続いて乗客たちの悲鳴がきこえた。
「園子!?ちょっと、園子!!!」
「何があった、蘭!」
「飛行機で何かあったみたいで…ねえ、返事して園子!」
どれだけ呼んでも、繋がっているはずの電話の向こうから返事は返ってこない。パニックになっている乗客の声だけが聞こえている。
その時、電話の向こうから一際大きな次郎吉の叫び声が響く。
『なぬぅ!?キッドじゃと!?』
「キッド!?キッドが現れたのか!」
「そんな…!」
騒然となる場に、中森の部下から、飛行機にトラブルがあり、緊急着陸することが伝えられる。
「緊急着陸って…!」
電話の向こうの様子からして、状況はかなり深刻だ。
ゆいなは、キッドが乗っているはずの飛行機の姿を探そうと空を見上げた。しかし、ここからでは何も見えない。
同じように窓の外をみていたコナンが、舌打ちをして走り出した。
「ちょ…コナン君!」
ゆいなも思わずその後を追う。
ゲートに向かう途中の窓から、飛行機が目視できた。黒い煙をあげながら、ふらふらと高スピードで滑走路に滑り落ちてゆく。
「新一!待って!」
「あれはエンジンがやられてる…あのままじゃだめだ!」
「そんな…!」
飛行機の異変に気付いた一般人が、次々と自分たちと逆の方向に逃げていく。「ちょっと!危ないよ新一!」叫んでも彼は止まらない。コナンとゆいなは、滑走路がよく見えるゲートに出た。窓の外に目をやり、思わず息を呑んだ。
制御を失った飛行機が、目の前まで迫っていた。
「ぶつかる…!」
ゆいなは思わずコナンを抱きしめた。逃げる余裕はない。足がすくんでしまって、ただ止まってくれることを祈るばかりで、ゆいなはコナンを庇うように強く抱きしめる。起こりうる衝撃に耐えるように、ぎゅっと目を瞑る。
「(たすけて、快斗…!)」
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