02



「で、そのメール以降ほんとに連絡がとれないの…!」

ゆいなは蘭の家、もとい毛利探偵事務所の接客スペースで、彼女と向き合いお茶を飲んでいた。
むすっとした顔でクッキーをぱくぱくと口に入れてゆくゆいなに、蘭は苦笑する。
もちろん相手が怪盗キッドということも彼の名前すら蘭には伝えていないけれど、そんな謎の彼氏のはなしでも蘭はいつも丁寧に聞いてくれた。

「まるで新一ね」
「(…うっ)」
「なんで男の子ってそうなのかなあ。こっちの心配なんて知らんぷりで」
「ほんとそれ。無事ならそれでいいんだけど…」
「そうね…」

お互い想い人の安否を願い、しばらく無言になる。ゆいなは新一が無事なことを知っている。というより本当は、誰よりも蘭の近くにいて、彼女のことを小さな身体で必死に守っているのだ。伝えてあげたい、何度となくそう思っているが、新一との約束でそれは絶対にできない。

快斗はどこに行ったんだろう。
キッドでいる時に連絡がつかないことは多いが、いつも大抵そういう時は行き先くらいは教えてくれていた。心配をかけさせないで、と何度言ってもわかってもらえない。

"ゆいながすぐそばにいてくれてよかった"

「(快斗がそばにいてくれないじゃん…ばか)」

あの時の快斗の微笑みを思い出して、胸が苦しくなる。ああ、あの時もっとちゃんと話しを聞いていればよかったかもしれない。いつだってそうだ。快斗はいつも真っ直ぐに気持ちを伝えてくれるのに、どうしても照れてしまって、同じように気持ちを返せたことがない。

「あ、園子からメール」
「ひまわりの落札できたの?」

いま、園子は鈴木次郎吉と一緒にニューヨークにいるらしい。アルルで見つかったというゴッホの二枚目のひまわりをオークションで落札しに行ったのだとか。蘭がぽかんと口を開けて固まったので、ゆいなは手元のケータイを覗き込んだ。

「…は!?3億ドル!?」
「びっくりした…」
「い、いまから記者会見だって、」

慌ててテレビを付けると、司会者によるひまわりの説明の後、次郎吉と園子が壇上にあがった。

「いつも忘れがちだけど、園子ってすごいお嬢様なんだよね…」
「ね………」

テレビの中の園子は、テキパキと報道陣の質問に答えてゆく。自信のある堂々とした姿はさすがだ。
3億ドルでの落札は予定通り、という次郎吉の発言に、一気に会場がざわめいた。園子が一歩前に出る。

『我々、鈴木財閥は、世界中に散らぼる花瓶に挿された構図のひまわりを全て集め、我がレイクロック美術館で、日本に憧れたひまわり展を開催することを、ここに発表します!』

報道陣のざわめきと、次々とたかれるフラッシュ。矢継ぎ早に飛ぶ質問に、芸術に疎いゆいなでも、とても無理そうな壮大な話をしていることがわかった。
そんなことが実現可能なのかと問う記者に対し、次郎吉は自信満々に「七人の侍」と称したスペシャリストを紹介していった。

「…6人しかいないけど」
『残りの一名は日本に着いてからからのセキュリティ強化要因じゃ。その者の名は…毛利小五郎じゃ!!』
「ええ、お父さん!?」

どうやら娘も知らなかったらしい。こんな大きな発表があるというのに、当の本人は馬の応援をしに行っているというのだから、ゆいなはもしここに新一もといコナンがいたら、呆れた笑いを浮かべるんだろう、と思った。

その時、画面の向こうから悲鳴があがり、テレビの画面が揺れた。
カメラが何かを映そうと追いかけて、ガタガタと揺れる。天井ばかり映る画面には、会場の悲鳴だけが入っている。どうやらパニック状態になっているようだ。

「な、なに!?」
「園子…!」
「……っ!?」

その時、画面に白い影が映った。キッド、という誰かの悲鳴が飛び込み、心臓が止まったかと思った。

「(快斗…!?ニューヨークにいるの!?)」
「ねえ、今のってキッドだよね!?」
「う、うん…」

どくどくと煩いくらいに鼓動が高鳴る。いまのはおそらくキッドだった。でも、キッドが絵画を狙っている?そんなはずがない。
ゆいなは今すぐにでも快斗に連絡を取りたい気持ちをぐっと抑えた。

prev|top|next
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -