「これかあ…」

なまえは、快斗たちと分かれて美術館の館内に客として入り、ひまわりの前に立っていた。予告状を出すことで、犯人が5番目のひまわりに手を出す前に先手を打ったつもりだが、展示中のひまわりにすでに細工をされていたら困るため、念のため直接確認しに来たのだ。
と、いうのはどうも建前のようになまえには思えた。最近の快斗はどうも、自分を現場から遠ざけようとしているように感じるのだ。今だって、快斗は警備員に扮して警察の中に飛び込もうとしているのに。

しかめっ面でひまわりを睨みつけていると、くすくすという控えめな笑い声。なまえがはっとしてそちらを見ると、おしとやかな佇まいをした老齢の女性がおかしそうに笑っていた。

「ああ、ごめんなさいねえ」
「いえ、あの、こちらこそ…」
「あなたが余りにも怖い顔で絵をみているものだから、おかしくって」

恥ずかしい。早いところ不審点がないかチェックをして、立ち去ろう。そう思い、絵に近づく。何にしても快斗が自分に任せてくれたのだ。しっかりとやらないと。

「好きな人のことを考えているのね」

柔らかい物言いなのに、爆弾のような強烈な言葉。なまえはおもわず振り返って、聞き返してしまった。

「す、好きな人って……」
「あら?ちがったかしら?」
「ち、ちがいます…!」

あからさまな動揺が表に出てしまい、女性にまたもや微笑まれることになる。好きな人、と考えてなまえは首を横に振る。黒羽快斗は、パートナー、ただそれだけ。

「(……それ、だけ?)」
「そういう気持ちはね、迷ってないで早くちゃんと向き合ったほうがいいのよ」
「向き合う…?」
「手遅れになる前にね」

何かずっと遠くのものを悲しむように、細められた視線の先にはひまわりの絵画。そこでなまえは、はたと気付く。そうか、彼女が寺井の言っていた「お嬢様」。

「あの…」
「あー!あれじゃない!?」

あった!と可愛らしい声をあげながら走ってきたのは、見覚えのある子供たち。

「オメーら、あんま騒いでっと追い出されるぞ」
「すみません、騒がしくて」

ガラスケースに群がる子供たちをたしなめながらゆっくり歩いてきた男の子に、おもわずなまえの顔がひきつる。
キッドキラーと呼ばれている、あの好敵手、江戸川コナンだった。
遠目から一方的に見たことはあっても、お互いを認識できる距離で会うのは初めてだ。まずバレる心配はないが、あまり一緒にいないに越したことはない。特に異常もないようなので、なまえは女性に会釈をしてその場を立ち去ろうとする。

「お嬢さん、」
「はい」
「自分に、素直にね」

向こうから、中森警部たちがやってくるのが見えたので、曖昧な言葉だけを簡単に返して、なまえは美術館を後にした。

「警察が着いたよ。ひまわりは特に異常なかった」
『オーケー。ありがとな、なまえ』
「あのさ、快斗、」

自分に素直に。
先ほどの言葉が脳裏をよぎる。

「……気を付けてね」

今のなまえには、それしか言えなかった。
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