「あのチャーリーってやつなんなんだよ…日本で堂々と銃ぶっ放しやがって…」

盗んだ五枚目の向日葵を取引と称して返すことで、自分があえて負けるように仕向け、鈴木次郎吉の信頼を取り戻させる計画は考え通りに進んだのだが、ひとつだけ厄介な介入が。

「相当嫌われちゃったね」

ぶつくさと悪態をつく快斗に困ったように笑いながら、なまえは破れたマントの修復にあたる。弾は避けたものの、白いマントに穴をあけてしまっていた。

「当たってたらと思うとぞっとする…」
「ああ、厄介な奴ばっかだぜまったく…」
「もうひまわり展も開催確実みたいだし、あとは警察に任せられない?」
「…なまえ」
「心配してるの。本当に」

真剣な声に顔を上げると、まっすぐな瞳とぶつかる。パートナーを承諾するときに、彼女を信じようという決め手になった瞳だ。快斗はなまえのこの表情に弱い。ただまっすぐに感情をぶつけてくれる彼女は、ポーカーフェースで生きる自分とは正反対のような気がして、だからこそどうしても勝てるような気がしない。

「さんきゅー、なまえ。でもここまできたら引けない」
「………快斗の頑固者」
「お互いさまだろ?」

なまえがふっと笑みをこぼす。そうかも、と笑うその柔らかさに、快斗もつられるように笑う。

「…もう、犯人が直接ひまわりを狙えるのは、展示会中だけよね…やっぱりそこで何か仕掛けてくるのかな」
「だな。ジイちゃん、あの女のパソコンからうまくデータ持ってこれるといいけど」
「………前々から気になってたんだけどさあ」

なまえにしては珍しく、少し言い淀む。それでもやはり快斗を見つめる目はどこまでも真っ直ぐだった。

「快斗、最近わたしに現場の仕事させてくれないよね」

ぎくり、効果音がつきそうなほどに、快斗の体が固まる。

「………そうか?」
「今回だって私がメイドさんにでも変装すればよかったわけだし、わざわざ寺井さんにお願いしなくても」
「いや、今回はジイちゃんが自分にも何か手伝わせて欲しいって言ったからだろ?」
「そうだけど、前は寺井さんのお年も考えて、私が現場で動くこと多かったのに」
「う、」

あからさまな動揺に、なまえの顔が曇る。不安そうな顔でまっすぐに見つめられれば、快斗お得意のポーカーフェースなぞどこかに隠れてしまう。

「なにかダメなところがあったなら、ちゃんと言って欲しい」
「べ、っつになんもダメじゃねーよ!」
「じゃあなんで」
「それは…そりゃあ、お前に危険なことさせたくねーからに決まってんだろ」
「……うそだ。だって前は、」
「嘘じゃねえよ、だって俺は、お前のこと…!」

眉をひそめるなまえの手を、勢い余って強く掴む。男である快斗よりも、ずっと細くて柔らかくて小さな手。どのタイミングからだったかなんて忘れてしまった。だけどもう自覚してしまってからは、この手が傷付くかもしれないと考えるだけで、彼女が辛い思いをするかもしれないと想像するだけで、どうしようもなく動揺する自分が出来上がってしまっていた。

「…俺は…っ、俺はさ、なまえのこと…!」
「坊っちゃま!データ入手、成功しました!」

テーブルの上に開いていたノートパソコンから、変声期を通した寺井の声。快斗は慌てて彼女の手を放して、画面の向こうにいる寺井を振り返った。

「やはり予想通りでしたな…いまデータを送信したので……どうかなさいました?」
「………なんでもねえよ」
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