「……なまえ、どうした?」

寺井のビリヤード場で、いつものように今後の計画について話し合おうといったん落ちあったものの、なまえはテレビを見ながらむすっとした顔をしている。
彼女の隣に座り、同じようにテレビを見ると、画面の中では例の飛行機事故が取り扱われている。

「んー…なんでもない」
「なんでもなくねえだろー」

むくれた頬を指先でつつくと、うっとおしそうに目を細める。少し黙ったあと、なまえはため息をついた。
仕方ないことなんだけど、と前置きしてから、ぽつぽつと話し始める。

「快斗は必死にひまわり守ろうとしてるのに、報道はキッドが悪いことしてるみたいなふうになってるのが、ちょっといやだなって」
「あーまあ、言いたい放題言われてはいるよなあ」
「今回はそういう計画だからしょうがないけど、やっぱりちょっと複雑」

まあなーと頬杖をつきながら考えたあと、いまだにテレビを見つめているなまえの横顔をみて、にやりと笑った。

「俺の代わりに怒ってくれてんの?」
「………代わりってゆうか、私もキッドの一部みたいに思ってるんだけど、ちがう?」
「違わない。なまえもジイちゃんも居てくれねえと、俺なんもできねーしな」

でも、と快斗は穏やかな笑みを浮かべてなまえを見る。なまえはそこではじめてテレビから視線を外して、彼が自分が思っていたよりもずっと近くでこちらを見ていたことに気付いた。

「そうやって、俺のために怒ってくれんのは、やっぱり嬉しいよ」
「………そ、っか」
「誰にどう言われても、なまえが味方なら怖いものねーな」
「………なら、いいんだけど」

ふい、と快斗から顔を逸らしなまえはテレビを消すとイスから立ち上がって、今度はビリヤード台のうえに広げた、損保ジャパン日本興和美術館の内部図とにらめっこをはじめた。あからさまな照れ隠しに、快斗は隠すことなくにやりとする。こういう反応がかわいいからたまらない。かといって、その気持ちを正直に伝えたことはないのだが。

「快斗ぼっちゃん、どうやら予告状をみて、警察が動き始めたみたいですな」

鈴木次郎吉宅に取り付けた隠しカメラをチェックしていた寺井が顔を上げる。モニターを覗くと、七人のプロフェッショナル達も揃って車に乗り込んでいるところだった。向かう先はただひとつ。なまえが広げた地図をたたみ、頷く。

「さて、じゃあ行くか」
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