「おい、俺が工藤新一の間は連絡するなって、」
『わかってる。でも緊急事態なの』
「ひまわりなら目の前にあるぜ?」

万一のために、飛行機でも低めの高度であれば通話出来るように改造をした連絡機が通話を知らせたのは、幸いにも客室を後にし、貨物庫でゴッホのひまわりの無事を確認している最中だった。

『手短に言うとね、その飛行機に何かしら細工がされてる可能性があるの』
「は?細工?」
『飛行機の整備士が一人行方不明みたいで。たぶん犯人が何かさせたんじゃないかと思って』
「おいおい…」
『とにかく、何があるかわからないから気をつけて』
「おっけー。それじゃ、ま、いますぐに、」

キッドが言い終わる前に、どん、と大きな音と共に機体が揺れる。思わぬ衝撃に一瞬閉じた目を開くと、まじかよ、と思わず呟く。目の前が青空だった。おそらく爆弾によって吹き飛ばされた貨物庫の扉に続くように、次々と荷物が宙を舞っていく。

『なにがあったの!?大丈夫!?』

なまえの声に返答する余裕はない。
自身の体も青空に吸い込まれる直前に、キッドはかろうじて機体にぶらさがる。手を伸ばす前に飛んでいってしまった、目的の絵画を探す。「……あった」このままでは、あの絵画に残された想いは果たされず、人知れず海の中に沈むだけ。まだ、届く。
意を決して、両手を離した。


「寺井さん!キッドが!」

無線機の向こうから爆発音がして、それきり彼の声が聞こえなくなってしまった。慌てて双眼鏡を覗き、飛行機の行方を追う。片方のエンジンから煙が出ており、安定しない機体が着陸を目指しているようだった。さらに倍率を上げると、空中で風に流される工藤新一もとい怪盗キッドの姿が。思わず息を飲む。

「ひまわりを取ろうとしているみたい、でも風が強くて…!」
「ああ…どうか、お願いします、坊っちゃま…!」

あ、となまえが声をあげる。キッドが絵画を掴み、そのまま風に煽られるように飛行機の機体に押し流されてゆく。ぶつかる、と思わず目を逸らしてしまった次の瞬間、空に広がったのは白いハンググライダーだった。
ほっと息を吐く。ザザッとノイズ音の後に、自慢気なキッドの声が続く。

『ひまわりは無事だぜ、よかったなジイちゃん!』
「ありがとうございます…!」
「……….もう、ばか…」
『んだよ、ナイスプレーだろ?』
「そうだけど…そうじゃなくて…!」
『それより飛行機は?あの調子だと着陸出来ても滑走路飛び越えちまうぞ』

なんとか平行を保ってはいるが、機体のスピードは着陸に向かうそれよりずっと速い。着地は上手くいったようだが、どうする術もなく、ただ祈るように飛行機を見つめる。あと少しで、建物に、

「……止まった」

聞こえるかと覚悟したような大きな音は立たず、機体が止まったことによる静けさが辺りを包む。よかった、とキッドが呟く。

『それにしてもあの女、こんなヤベーなことするとはな…』
「ほんと、思ってたよりずっと危険かも…」

言ってから、なまえはしまったと思った。隣にいる寺井が、申し訳なさそうな不安そうな顔をしている。

『ま、俺に任せとけば大丈夫だぜ!とりあえずはコレ返さねーとな。傷ついてなきゃいいけど…』
「あのキッドキラーくん、飛行機の近くにいるみたい」
『オーケー。じゃあ、名探偵と少し遊んで来ますかねっと』
「……随分、あの子のこと信頼してるのね」
『あれ?なまえちゃん、もしかして嫉妬?』
「……っ、ばーか、そのまま捕まっちゃえ!」
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