銃を捨てろ、と怒鳴り声が響く。
天井にワイヤーを伸ばし柔軟な動きで宙へと飛び上がったキッドは、銃口を向ける警備関係者を嘲笑うようにその手を逃れくるりと舞う。会場が騒然とし、会見を撮影しようとしていたカメラが一斉にキッドを捉えようとシャッターを切る。
『いいかんじに目立ってるよ、キッド』
「そりゃどーも」
耳元につけた無線から聞こえる声に小声で微笑んでから、キッドは室内テラスを飛び越える。さて、どちらのルートで行くべきか。
『Bルートにして、一般人が少ない』
「Aのほうが近くねえか?」
『ここは日本じゃないから、発砲されて他の人が巻き込まれたら困るでしょ』
「……俺はいいのかよ…」
あきれた呟きは、無線の向こうにいる彼女に届いたかは定かではないが、キッドはすぐに方向を変えて、彼女の言う通りの通路を走る。後ろから追ってくる怒号。おそらく左右からも。ガラス窓に突き当たったところで囲まれるであろうという予想通りに、キッドは背中に銃口を向けられ両手をあげることとなる。
『……気をつけてね』
祈るような彼女の声を耳にしながら、キッドは閃光弾を光らせた。焦ったのか、無鉄砲に乱射する銃声が響く中、キッドはすぐに白い衣装を脱ぎ捨てる。
「じゃ、日本で落ち合おうぜ、なまえ」
りょーかい、という声を最後に無線は途絶え、キッドは工藤新一へと成り代わった。
「お困りのようですね」
あたかもいま着いたような顔をして、あの名探偵のように、自信満々な声を響かせる。
さあ、ここからが勝負だ。