ダム、ダム、とボールが床を打つ、リズミカルな音が好き。
キュッとバッシュの擦れる音も、パシュッとボールがゴールに入る音も好き。
マネージャーになるまでのわたしは、「てっちゃんが好きなバスケ」くらいにしか思っていなかったのに、同じ体育館に立つようになって、純粋にバスケが好きになった。
赤司くんのスカウトは強引だったけど、でも好きなものがひとつ増えたきっかけだから、感謝してるといえばしている。そんなこと言ったら赤司くんに逆らえない要因がまたひとつ増えるだけだから、言えないけれど。
「休憩!」
うっす!とみんなの声が重なる。わたしはベンチから立ち上がって、それぞれにドリンクとタオルを渡す。桃ちゃんは、今のみんなの動きのデータをまとめて、うんうんと唸っている。マネージャーは他にもいるけど、スタメン付きのマネージャーはわたしと桃ちゃんが基本。
「赤司くん、おつかれさま!」
赤司くんに駆け寄ってドリンクを渡すと、赤司くんはそれをごくりごくりと飲んで、すっと目を細めたと思ったら、突然わたしの頭をそっと撫でた。
「う、え?」
「マネージャーが板についてきたじゃないか」
「え?うん、ありがとう?」
「やっぱり僕は正しいな」
すっと、とても綺麗な微笑みに、無意識に心臓が跳ねる。やっぱり赤司くんは綺麗だ。
それに、滅多に褒めてくれたりなんかしないから、わたしはどう反応していいかわからない。どぎまぎしていると、突然背中にむわっと熱が押し当てられた。頭のてっぺんに顎がささって、すぐに誰かわかった。
「なまえちんーつかれたしー」
「わーむっくん!ちゃんと汗拭いてよー!」
「拭いてー?」
なんて甘えたなんだろう!
わたしは仕方なく、ぐるんと体を回転させて、タオルでむっくんのおでこや首筋を優しく拭いてあげる。赤司くんが額に手を当ててため息をつくけど、むっくんはぎゅーっとわたしに抱きついて動こうとしない。
「あー!ずるいッス!なんで俺は抱きつくと怒られるのに、紫原っちはいいんッスかー!?」
「それは黄瀬くんが黄瀬くんだからだよ」
「なんか哲学的!?」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ黄瀬くん。彼のドリンクは未だにわたしの手の中だ。むっくんは動いてくれそうにないから、一生懸命黄瀬くんに手を伸ばした。けど、それを取る前に、黄瀬くんは青峰くんに「わんおんわん!」と叫び始めてしまった。どれだけ元気なの。
「黄瀬くん、ちゃんと水分補給して休憩して!熱中症になっちゃう!」
「青峰っちと1on1したらするッス!」
「だーめー!熱中症こわいよ!」
マネージャーとして水分補給は譲れない。運動部なんて縁のないわたしだけど、これでもちゃんと勉強しているんだ。いつみんなが倒れても大丈夫なようにはしているけれど、本当なら絶対に倒れないで欲しい。
わたしが「熱中症!」と何度も怒ると、なぜか青峰くんがにやりとした。いやな予感。
「なあ、貧乳」
「…………なんですかあほ峰くん」
「うるせード貧乳。熱中症ってゆっくり言ってみ?」
「………はい?」
てっちゃんと真太郎が、話すのをやめて振り向いた。
はて、目の前のこの色黒の彼は何を言っているのだろう。やけににやにやとしているのが気になったけど、ほら、と促されてわたしは首を傾げつつ呟く。
「ねっちゅーしょー?」
「「!?」」
「もっとゆっくり」
「えーなんなの……ね、ちゅー、しょー?」
言ったよ?と首を傾げて、青峰くんを見上げると、その視界に突然黄瀬くんが割り込んできた。
目がキラキラと輝いている。いいからはやく水分補給してくれないかなあ。
「なまえっちもう一回!」
「ね、ちゅー、しょー……なんなの黄瀬くん」
「するッス!」
がばあ、と抱きつこうとしてきた黄瀬くんの頭を、むっくんが上から掴んだ。そのままぶらんぶらんと持ち上げる。む、むっくん怖い…!
「黄瀬ちん、なまえちんに近づかないで。なまえちんは、俺としよ?」
「……え?なにを?」
「え、だって、ちゅー…」
「お前たち何を言わせているのだよ!」
いつのまにかやってきていた真太郎が、むっくんから黄瀬くんを取り上げて、それからついでにわたしのことも取り上げてくれた。むわっと熱を持っていたむっくんにひっつかれて、いつのまにかわたしも汗をかいていたみたい。空気がすうっとして、思わずほっと息をはいた。
「青峰!原因はお前だろう!」
「なんだ、緑間、何かヘンなことに聞こえたか?」
「……!べ、別にそういうわけでは…」
「緑間くん、意外とむっつりだったんですね」
「い、いいかがりなのだよ!」
しどろもどろになる真太郎。
またぎゅーって抱きつこうとしてくるむっくんだったけれど、てっちゃんが差し出したまいう棒につられて離れていった。黄瀬くんは、頭を抱えてしゃがみこんでいる。赤司くんは呆れて桃ちゃんのところに行ってしまった。
えーと……
「とりあえず、みんな、水分補給してください……」
マネージャーは本当に大変です。