「なまえちんー」

ずうん、と音でもしそうなくらいの重りが頭に乗っかった。抗うこともできずに、わたしはつま先と睨めっこ。紫頭のこの長身の男の子、むっくんは、いつもわたしの頭のてっぺんに顎を乗せてくるのだ。痛いからやめて、といってもきいてくれない。

「むっくーん。痛いよ重いよーまた来たの?」
「んーなまえちん、お菓子ちょーだい」
「え、さっき食べたばっか…」
「敦、あんまりなまえを困らせるな」
「えー」

ぶすう、とむっくんは拗ねながらも、赤司くんの言葉に従ってわたしの頭から離れる。
むっくんは、赤司くんの言うことはちゃんときく。ていうか部活のみんな、それこそクラスのみんなも赤司くんの言うことをきくけど、むっくんをおとなしく出来るのは赤司くんだけ。
だからなのか、むっくんは隣のクラスなのに、よくうちに遊びに来くる。むっくんと同じクラスの黄瀬くんは、休み時間はだいたい女の子と一緒にいるから来ないけど。

離れてくれたむっくんをよしよしして、わたしはこっそり机の下でむっくんに飴玉をひとつ握らせてあげた。
赤司くんに内緒、って意味だったのに、むっくんはぱああっと嬉しそうにするものだから、わたしは赤司くんから笑顔でお説教を受けることになりました。


「餌付け」
「ん?」

むっくんのストレッチを手伝って、それから黄瀬くんのところに行くと、私に向かってそんなことを言った。
一瞬よく分からなかったけど、彼の視線をたどってわかる。むっくんのことか。

「いつも、なまえちんにお菓子もらいに行くーって教室出てっちゃうんッスよ」
「あはは、赤司くんに見つかると怒られるの私なんだけどね」
「なまえっちも大変ッスねー」

からから、と黄瀬くんは人懐っこい笑顔を浮かべるけれど、実際は案外冷たい性格だったりする。興味のある人には、うっとおしいくらい懐くのに、そうでない人には適当だ。黄瀬くんがスタメンになって、仲良くなれたなあとは思っているけれど、時々そういうちょっと怖いところを見かけるとびっくりしてしまう。

まあ、バスケ部はみんなそんな、くせのあるかんじだけど。

「まあでも、あの紫原っちを手懐けるなんて、さすが赤司っちがスカウトしたマネさんッスね!」
「スカウト……てか、命令だけど」
「黄瀬ちん」

しゃがんで黄瀬くんの足をマッサージしていると、突然目の前が薄暗くなった。
顔を上げたら、体育館のライトを背景に、逆光に佇むむっくんが居た。しゃがんでるからか、余計に大きく感じる。

「黄瀬ちん、失礼」
「ん?」
「俺、別になまえちんがお菓子くれなくても、なまえちんのこと好きだし」

少し不機嫌そうに言ったむっくんは、わたしの頭をぐしゃぐしゃと撫でて、わたしたちが何かを言う前にコートに戻っていってしまった。
赤司くんと何かを喋っている様子を見つめながら、黄瀬くんがぽかんとした顔で言う。

「え?紫原っち、なまえっちのこと好きなんすか?」
「えー?黄瀬くんの思ってる好きじゃないと思うけど」
「いやいやいや!」

男はみんな狼ッスから!
となんだか一人納得して、コート端に居るてっちゃんの方に意気揚々と走っていってしまった。多分、むっくんがわたしのことを好き、とかそういうことを興奮して喋っているのだろうけれど。

数分後、スタメン全員にあしらわれて、しょぼんとした黄瀬くんがベンチに戻ってきたのでした。


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