やると決めたらとことんやる。

一見するとかっこよく聞こえるこの性格、正直なところ、わたしはあまり得をしたことがない。


小学生のとき、飼育委員で、クラスのカブトムシの世話をすることになって、やるからにはとことん!と思って昆虫のことをいっぱいいっぱい勉強した。

そしたら、女の子なのに、ついたあだ名が「昆虫博士」

がんばることは無駄じゃない。知りたいことを突き詰めるのはかっこいい。とことんやることはいいこと。
そう言い聞かせていても、もっと上手に器用に生きてみたいと、わたしは思うのです。


「あ、赤司くん…」

となりの席の真っ赤な頭が、ぴくりと動く。とても強い光をもった目が、わたしを見つめる。その目に見つめられると、わたしはいつも、どぎまぎしてしまう。毎日毎日見ているのに。

「あの…その…」

なかなか言い出せないでいるわたしに、赤司くんはため息をついて、机をごつんとくっつけてきた。

「今年入ってこれで5回目だな」
「………すみません」

となりの席の赤司くんとは、一年も二年も同じクラス。そして何故か、ずっとわたしのとなりの席。わたしの右隣の席は、ずうっとこれからも赤司くん。
なんで?と聞きたいけれど、赤司くんが「君のとなりの席はずっと僕だよ」って言ったから。それ以外の理由はない。

「まったくなまえは、ちゃんとしてるのか抜けてるのか、はっきりしてくれないか」
「どうももうしわけない…」

赤司くんが、国語の教科書を広げて、真ん中に置いてくれる。

わたしと赤司くんが永遠のお隣さんになったきっかけは、またまた、わたしのとことんな性格にある。

それは一年生の冬の放課後。
わたしが保健委員のお仕事で、保健室当番をしていたとき。そこにやってきた、部活中の赤司くん。先生がちょうど出かけてて、どうしようと思ったのだけど、見たところ軽い捻挫だったので、わたしが分かる範囲で手当してあげた。
保健委員をやるならとことん、ちゃんとお仕事をできるように、って思ってある程度勉強はしていたから、役に立ってよかったなあって嬉しくなっていると、立ち上がった赤司くんがわたしの手首を掴んだのだ。

「君、うちのマネージャーになりなよ」

そのときの赤司くんの瞳を、わたしはいまでもよく覚えている。


「なまえ」
「……う?」
「僕が教科書見せてあげてるんだから、授業ちゃんと受けなよ」

赤司くんの声に顔をあげて、黒板を見て焦る。いつのまにか二ページも教科書が進んでる。慌てて黒板をノートに写していると、赤司くんは肘をついてわたしをじっと見つめた。

「そんなぼんやりして、何を考えてたの?」

あのときの赤司くんの目、とっても怖かったなあ、なんて思っていたとも言えず、わたしはとりあえず謝った。
赤司くんはすっと目を細めたけど、特に詮索することもなく…と思ったのに、さっと教科書を自分の机の隅っこに移動させてしまった。

「あ、赤司くん…!いじわる…!」
「君、僕に対して失礼なこと考えてたみたいだからね」
「(なんでわかるの!?)」

なんてそんな疑問も、彼が赤司くんであるということ自体が答えになる。彼はそんな人なのだ。

「今日の部活、覚えておいてね」

やるからには、とことん。
そんなわたしは今、この赤司くんのスカウトという名の命令で、バスケ部のマネージャーを絶賛とことん頑張っている最中なのです。


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