たとえば僕に魔法の力がなかったとして、ホグワーツに通っていなかったとして、グリフィンドールに選ばれていなかったとして、ジェームズたちと友達になっていなかったとして
果たして僕は、君に出会えるチャンスを、人生のどこか一度ででもいいから掴むことが出来ていただろうか。

「リーマスは哲学的なことを言うよね」

そう言うゆいなの眉は寄せられて、飲み込めないといった顔をしていた。僕は本のページをめくる指を離して、その眉間に人差し指をぴとりとあてる。そうすると彼女の眉間の皺は簡単になくなる。額を撫でられてくすぐったそうに頬を緩める姿は、まるで猫みたいだ。そんなことを言ったら拗ねてしまうけれど。

「別に、ただ、いま読んでた本が、二人の主人公が偶然をひとつずつ重ねて運命を共にする話だったからさ」
「そんな本を読むところが哲学的」
「難しいことなんてなんにもないよ」

ただ、こうやって僕がゆいなを好きになって、ゆいなも好きになってくれて、手を繋いでいられる確率って、どんなものなのかなって思っただけなんだ。

「偶然か必然かってはなしね」

ゆいなは肩まで伸びている少し癖毛な髪の先を、くるくると遊びながらうーんと唸った。そういう君の小さなくせを見つけるチャンスなら、僕はぜったいに逃さないんだけどな。

「私は、リーマスに会った時、運命の王子様だーって思ったんだけどなあ」
「………っじょーだん」
「じゃあリーマスは、私を好きになった瞬間を覚えてる?」
「ううん」
「ほら、私も。だから本当は、会ったときから、会う前から、リーマスのこと好きだったんじゃないかって思うの。気付かなかっただけで」
「ロマンチストだね」

そっけなく本に視線を落としたのが、照れ隠しだってバレただろうか。
くるくると遊んでいたゆいなの指は、いつのまにか僕の腕に回っていた。ふふ、と笑いをこぼしながら額を寄せる彼女は、どうやら全部お見通しみたいだ。

「リーマスは?生まれ変わっても君を見つける自信があるよ、って、そんなロマンチックなことは言ってくれないの?」
「………わからない」
「ええーケチ」

ぐりぐりと僕の二の腕を攻撃してくる頭を少し乱暴に撫でてやる。それでもやめないので、僕は本を閉じてかわりに彼女を腕の中に閉じ込めた。きゃーと楽しそうに声をあげる彼女の笑顔を、果たして僕は生まれ変わっても覚えていられるんだろうか。これからどれくらい同じ時を過ごせば、このポンコツな脳みそは、心は、彼女だけを永遠に忘れずにいられるのだろうか。

「よし、じゃあ、そんなリアリストなリーマスくんに、運命というものを教えてあげよう」
「んん?なに?」
「リーマス、今日のお昼、なにが食べたい?」

おひる?
ぽかんとする僕の顔を面白そうに見つめながら、ゆいながさーん、にー、いーーーち、とカウントダウンする。えっと、

「「オムライス」」

かぶった声に、してやったりというゆいなの顔。僕の額に軽いキスを落とすと、自慢げに彼女は笑った。

「ほらね、私、ちゃんとリーマスに会えたでしょう?」

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