「プレゼントは?」

ニカッ。
そんな効果音が聞こえそうなほど、無邪気な笑顔を浮かべて、目の前の彼は右手を差し出した。
プレゼントって催促するものだっけ?と内心思いながらも、自分で出すタイミングも掴めずにいた私は、黙って彼の手のひらに青色の小箱を乗せた。
青子に頼んで一緒に選んでもらった、腕時計。
まったくいいものじゃないけど、快斗の趣味には合っているはず……だと信じたい。

そんな私のドキドキなんてまったく気付いていない風に、プレゼントをじっと見た快斗はこてんと首を傾げた。

「え?」
「え?……てなに?」
「いやー……」

快斗は一瞬むくれた顔をして、それから我に返ったように頭を掻くと、なぜか照れくさそうに頬を染めた。
いつもこうやってころころと変わる表情なのに、ポーカーフェイスだなんて言うんだから笑っちゃう、なんていうのは秘密なんだけど。

「ごめんなんでもない!さんきゅ、開けていい?」
「すとーっぷ!だめだめ、言って!」
「えー」
「えーじゃありません!気になるでしょ!」
「………」

快斗からプレゼントを取り上げて、今度は私がむくれてみせれば、彼は困ったように笑う。
なんだか私が悪いことしているみたいだけど、しょうがないよね。プレゼントを渡してあんな反応をされたら、誰だってどうしても気になってしまう。
私がまったく折れずにいると、快斗は諦めたようにため息をついて、あーとかうーとかうなり声を上げながら、突然私を抱きしめてきた。

「かい、と!?」
「俺さ、ちょっと期待してたんだよね」
「え、なにを?」
「………去年、俺が言ったこと、覚えてない?」
「えーと……」

覚えてる。思い出した。

私がいい淀んでいると、快斗がぎゅうぎゅうと私を抱きしめる力が強くなった。
勝手に顔に熱が集まるのが分かって、私は苦し紛れに彼の肩に顔を押し当てる。
にやり、快斗が頭上で笑ったのが分かった。あ、まずいかも。
ほんとにころころ変わるんだから。

「あれ、ゆいなちゃん、覚えてるんだ?」
「………うっさい…」
「なあ……だめ?」

ちょっといつもより低い声で囁くものだから、また余計に熱が集まって、今度は苦し紛れに快斗のお腹を抓ってやった。
いて、と小さく声が上がるものの、無駄にスタイルがいいのだから掴める肉がなくてあまり意味がなかった。

なあ、

快斗がまた、今度はもっと耳元で囁く。
くらくら、熱が高まっていって、私は持っていたプレゼントを机の上に置くと、そのまま両手を彼の背中に回した。

ああもう、どうにでもなれ。

「……ん、じゃ、ありがたく頂きます」

無邪気な声に続いた正反対のリップ音が、私の鼓膜を振るわせた。

 来年のプレゼントは、君がいい。

(あ、プレゼントもちゃんと開けてよ?悩んで買ったんだから)
(ん。腕時計だろ?分かってるよ、さんきゅー)
(中身知ってるってことは……まさか、初めから全部演技?)
(さあ、どうでしょう?)
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