会長室に案内されたゆいなたちは、ロシア大使館一等書記官のセルゲイ・オフチンニコフ、美術商の乾将一、ロマノフ王朝研究家の浦思青蘭、フリー映像作家の寒川竜を紹介された。
セルゲイと乾のエッグの取り合い、そしてそれを囃し立てるような寒川の行動に、ゆいなは思わず顔をしかめた。
彼らもまた、エッグを狙っているのだ。

「(もしかして、快斗はエッグをこの人たちに渡さないために…?)」

といっても、何故彼等の手に渡るのを阻止する必要があるのか分からない。鈴木会長が売ると決めた相手に渡るのなら問題がないはずだ。


「へえー!おもろいやないかい!」

紹介された4人は部屋を後にし、ソファに促されたゆいなたちの前に、エッグが箱から出された。
実際に目にしたそれは、思っていたよりも地味で、そこらの骨董屋に並んでいそうなものだった。しかし、蓋を開けると中には黄金で出来たニコライ皇帝一家の像があり、さらに、側面の鍵穴に鍵を差し込んで回すと、黄金の像の持つ本がぱらぱらと捲る仕掛けが施されていた。

「これが、8億…」
「そんだけのもんだったら、あのキッドも欲しがるわけだな」
「……あの、本の仕掛け以外には何もないんですか?」
「え?ああ、そうだね。あとは特にないなあ」
「………」

ゆいなには、どうしてもこのエッグに何か他にも秘密があるように思えて仕方がなかった。コナンが気がついた、側面にいくつか埋め込まれたガラスのことも、どうしても気になる。コナンの言うとおり、装飾品にしては価値がなさ過ぎる。


「気になるといえば……」

服部の言葉で、話はキッドの予告状のことになった。もちろん、ゆいなはそれについて快斗からなにも聞かされていない。光る天の楼閣について、服部と和葉が議論しているところに入ってきたのは、中森と茶木だった。
中森はゆいなを見つけると、びっくりしたように目を丸くした。

「えっ、ゆいなちゃんじゃないか!」
「お久しぶりです、おじさん!」
「ど、どうしてここに?」
「園子たちとは、昔からの友達なんです」

中森は園子や蘭を見て、なるほどと頷く。
それから思いついたように、ゆいなの肩に手を置いた。

「ああそうだ!君はよく、快斗くんのマジックを見てるだろう?何か気づいたら言ってくれよ」
「あ、はい、私で役に立つなら…」
「といってもまあ、今回はキッドがマジックをする機会すら与えないんだがな!」
「え?」

ゆいなが首を傾げるも、中森は極秘だから、と自信満々に微笑むだけだった。
それから話は時刻のことに移り、小五郎の推理で、午前三時が予告の時間だということになった。
それまで大阪を案内してくれるという服部たちの誘いに乗り、ゆいなたちは美術館を後にし、難波布袋神社に向かった。

「ね、新一」
「なんだ?」
「予告の時間、ほんとにアルファベットのLだと思う?」
「……」
「なんかさあ、あえてアルファベットにする意味がわからないなあと思って…て、なに…?」

きょとんとした顔をしているコナンに、ゆいなが言葉を止めると、コナンはふっと吹き出した。

「いや、オメーがそういう難しいこと考えるなんて珍しいなと思ってさ」
「ちょ、馬鹿にしてるでしょ!」
「してねーけど、いやだってさ、」
「いーですよー!服部君に聞くから!服部くーん!」
「なんや?」
「だーから!してねえって言ってんだろ!」

前を歩く服部に声を掛けると、コナンが慌てて服を掴んでくる。拗ねたようにその手を振り払うと、悪かったと素直に謝ってくるものだから、それを見ていた服部がにやにやと笑った。


そんなやりとりをしている彼女たちの後ろに、一羽のハトが止まっていたことなど、誰も気づくことがなかった。


prev|top|next

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -