「リムジンとは、さすが鈴木財閥だな……」
「憧れの怪盗キッド様に会うには、これくらいじゃないとねー!」

園子の父の秘書である西野が運転するリムジンで、園子が笑顔で答える。
キッドに会えるかもしれないというだけで、ここまで気合を入れる園子はさすがというかなんというか。

「もう、園子ってば、ほんとにミーハーなんだから……」
「だってえ、神出鬼没の大怪盗!その上なんてったってイケメンだって噂じゃない!」
「(……確かに、イケメン、だけどさ)」

正直、ゆいなとしては、自分の彼氏が女の子に騒がれるのはいい気分がしないのだが。そんなことを言うわけにもいかず、少しむすっとした顔になってしまう。そんなことをしていたら、近くにいる名探偵にバレてしまうかもしれないのに。そう思ってもなかなか表情を取り繕うのは難しかった。

「着いたわ!」

園子の声に顔を上げると、車は鈴木近代美術館の駐車場に入っていた。
西野にお礼を言って車から降りると、入り口という入り口全てに配置された警官と、空を巡回するヘイコプター。
いつになく厳重な警備体制に、ゆいなは思わず声を漏らした。

「すごい警戒ねー」
「まさに蟻の這い出る隙もねえってかんじだな」
「あったり前よー!相手はあの怪盗キッド様!なんたって彼は……」

「神出鬼没で変幻自在の怪盗紳士。硬い警備もごっつい金庫も、その奇術紛いの早業でぶち破り、おまけに顔どころか声から性格まで完璧に模写してしまう変装の名人ときとる」

背後からかかった、くぐもった声に振り向くと、そこにはヘルメットを被り、バイクにまたがった二人組みの男女が居た。

「ほんまに、めんどくさい奴を敵に回してしもうたのう、工藤」

ヘルメットを取ってにやりと笑ったその男に、ゆいなは見覚えがあった。
新聞で何度か見かけたことがある。西の名探偵と呼ばれる、新一のライバル、服部平次だ。
というかそれよりも、

「ちょ、工藤って……!」
「もー!服部君、なんでいつもコナン君のこと工藤って呼ぶの?」
「すまんすまん、こいつ工藤に似とるんや」

あっけにとられているゆいなに、コナンが振り向いて目配せをした。
服部の話で盛り上がっている園子と蘭に気づかれないように、彼の隣にしゃがみこんで小さく声を掛ける。

「まさか、あの服部君も、新一のこと知ってるの?」
「あー……まあな」
「聞いてないよ!しかも普通に工藤って言ってるし!」
「……俺も困ってるんだよ」

呆れた笑いをこぼすコナンに、思わず同情して同じように笑う。
どうやら彼は嘘が苦手な人のようだ。
けれど、コナンが秘密を任せられる人だから、相当信頼しているのだろう。

いつの間にか揉め始めていた服部と和葉を蘭がなだめ、西野に連れられて美術館の中に入る。
入り口を固めていた警察に敬礼をされて、ゆいなは初めて自分が快斗と対立している側に居ることを実感した。
ふと、今快斗はどこにいるのだろうと思いをめぐらせる。
もしかしたら、この警官の誰かに変装しているのかも。もしくは、鈴木財閥側の誰かに成り代わっているかもしれない。


「よー!アンタがゆいなちゃんやろ?」

ぽん、と肩に置かれた手にびっくりして振り向くと、服部がにかっとした明るい人の良い笑顔を浮かべていた。

「あ、はじめまして。服部君」
「工藤のこと見破った、すごい姉ちゃんだって聞いとるで!よろしくな!」
「え?そ、そんなことないよ、たまたまだし?」
「……服部、何話してんだよ」

こそこそ、と話をしていたことに気がついたコナンが、蘭たちから離れて不機嫌そうに見上げてくる。
服部はそれを見てにやりと笑うと、その頭をぐりぐりと拳で押し付けた。

「いって!なんだよ!」
「いやー工藤も隅に置けへんやっちゃなと思ってなー」
「バッ、バーロー!余計なこと言うんじゃねーぞ!」
「へいへーい」

にやにやと笑う服部と必死にそれを見上げるコナンは、どこからどう見ても兄弟に見える。
それに思わず笑いをこぼすと、二人同時にきょとんとした顔で見られて、ゆいなは慌てて顔の前で手を振った。

「や、ごめん、なんか兄弟みたいだと思って」
「……こいつと兄弟なんか、ぜってーごめんだ!」
「まーそういうなや、コ、コ、コナンくん?」
「呼べないんだ……」


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