快斗が提示した勝負の内容は、いたってシンプル。
ゆいなは警察の側につき、キッドの邪魔をする。エッグを盗むことができたら、快斗の勝ち。できなかったら、ゆいなの勝ち。


「(邪魔なんて、できるわけないじゃん……)」

盗んで欲しくないとは言ったものの、それは快斗の身を案じてのことなのだ。
自分が邪魔をしてリスクを作ることなんてできる筈がない。
それなのに、結局その勝負を受けることになってしまったのは、ゆいなの意地っ張りな性格と、快斗の自信満々な言葉のせいだった。

“どんなことがあっても、俺は大丈夫だって、証明してやるよ”

証明して欲しい。純粋にそう思ってしまった。
こんな理由のない不安なんて吹き飛ばして、絶対大丈夫だって笑って欲しい。

そうして、ゆいなと快斗の勝負は始まった。


「………なんでオメーがいるんだよ」

不機嫌そうに呟いた少年の頭を、ゆいなは笑顔で上から押さえつけた。

「なあんでそういうこと言うのかなーコ・ナ・ン・君?」
「ちょ、おい、地味にいてえって!」
「きこえませーん!」

ぐりぐり、と笑顔で生意気な少年をいじめていると、なかなか来ないゆいなたちを心配した蘭の声が飛んでくる。
そちらを見れば、そこに止まっていたのはリムジン。園子の気合に呆れていると、ゆいなの手から逃げ出したコナンがため息をついた。

「オメー、昔っから事件に巻き込まれやすいんだから、ちゃんとおとなしくしてろよ?…まあ、今回はキッドだからよっぽど何もないだろうけど…」
「巻き込まれやすいのは新一でしょー?」
「……」

はあ、とため息をつくコナンは、小学生にしては老けていると思う。
その頭を、今度は少し乱暴に撫で付けて、耳元でこそっと囁いた。

「新一こそ、もっと小学生らしくしなよ」
「……努力はしてる」
「そんなんじゃ、すぐにバレちゃうよ?」

ゆいなは真剣だった。その目を見つめ返して、コナンが頷く。誰にも、特に蘭には何も言わないでくれ。そう約束したのを、ゆいなはずっと忠実に守り続けている。
新一の身を案じて辛い想いをしている蘭のことを思うと苦しくなるけれども、同じように黙っている新一も傷ついていることを知っているから。

「ちょっと二人とも、早く乗りなさい!」

園子の声に、ゆいなはコナンの手を取ると、駆け足で彼らの元に向かった。


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