「大丈夫か!?」

薄まっていきそうな意識を繋ぎとめたのは、コナンだった。
掠れていた視界に、彼の心配そうな顔が映りこむ。
大丈夫、そう伝えようとして息を吸い込むが、ひゅう、と嫌な音がして、ゆいなは言葉を発する代わりに大きく咳き込んだ。

「……っ、ごほ、」
「ゆっくり息しろ。そう、ゆっくり、」
「ん……なん、とか」

倒れてきた柱は、コナンがなんとかそこにあった瓦礫を蹴って柱にぶつけたことで、軌道がそれ、直接ゆいなに倒れることは免れた。
そこから先のことを、ゆいなはあまり覚えていない。必死に火を避けて、道を探して、気がついたら外に出ていた。
背の低いコナンは簡単に炎に飲み込まれてしまいそうで、それだけがとにかく怖かった。

意識ははっきりとしてきたものの、少しだけ地面が揺れているような感覚がした。息を吸うにも、ごほごほと何度も咳が出る。どうやら煙を吸ってしまったらしい。
後ろを振り向けば、火の手はもう城全体に回ってしまった。地下までは燃えていないだろうけれど、皆は大丈夫だろうか。

「バーロー……俺なんか、庇うから」
「……あたりまえ、でしょ」

ゆっくりと背中をさするコナンの手に任せ、揺れに耐えられず目を瞑ってなんとか息をしていると、突然ふわりと体が浮いた。目をうっすらと開ければ、悲しんでいるような怒っているような白鳥の表情があった。

「青蘭さんを連行して、そのまま彼女を病院に連れて行きます」
「……だいじょぶ、だよ」
「嘘はいけない。本当に……無茶ばかりして、」

白鳥の言葉がそこで途切れた。それ以上何を言うこともなく、ゆいなを助手席に座らせると今度はコナンを振り返った。

「君も病院に、コナンくん」
「僕は大丈夫だよ。それに、全員いなくなったら、蘭姉ちゃんたちが心配するでしょ」
「……そうだね」

白鳥が、助手席のドアを閉めた。外の音は、中で目を閉じるゆいなには届かない。
コナンはそんなゆいなの姿を心配そうに見つめると、普段よりも低い声で、不安を押し殺すように呟いた。
それは、先ほど青蘭と対峙していた時の声に近かった。
江戸川コナンとしてではなく、工藤新一としての、声。

「……ゆいなのこと……頼んだからな」
「任せてください」

こくり、と力強く頷くと、白鳥はすぐに運転席に乗り込んでエンジンをかけた。
走り去ってゆく車を見送って、コナンは傍にあった車にもたれかかり、ゆっくりと息を吐いた。


「ゆいな……」


何かを願うようなその声は、燃え盛る城に吸い込まれていってしまったような気がした。


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