「ゆいな……!」
叫んだのは、白鳥とコナン、同時だった。
青蘭は発砲はせず、代わりにゆいなに体当たりをして、彼女を通路に投げ出した。
すぐに白鳥が駆けつけて助け起こし、その横をコナンが駆け抜ける。
「コナンくん!」
「毛利さん、あとはお願いします!」
「あ、ちょっと!」
ゆいなが無事であることを確認した白鳥は、すぐにコナンを追って走り出した。
皆伏せていたから、青蘭の顔を見たのはゆいなだけだ。青蘭が、スコーピオンだった。
ざわり、嫌な予感が胸を這い登る。
ゆいなは知っていた。あの人を殺してしまう目を。たとえ彼女を追い詰めたとて、彼女は本気で二人を殺そうとするだろう。
脳裏に、右目を撃たれて転がる、二人の姿が浮かんだ。
「…やだ、そんな、の」
「ちょっと、ゆいな!?」
「おい!」
ゆいなは走り出した。他に何も考えず、目の前をいくスーツの男に追いつこうと必死に走る。と、突然前方で爆発音がして、天井が崩れはじめた。
振ってくる瓦礫をよけようとして、ゆいなの足がもつれる。そのまま瓦礫に飲み込まれる、と思ったとき、何かに手を引かれて、目を開けたときには開かれた空間があった。
「何やってんだオメーは!」
手を掴んでいたのは、白鳥の姿をした快斗だった。
声を変えることも忘れて叫んだ彼は、ゆいなの両肩を掴む。
おそるおそる少しだけ後ろを振り向くと、そこは少しの通れる隙間もなく、瓦礫が道をふさいでいた。
「快斗……」
「もう少しで死ぬとこだったじゃねーか!無茶ばっかりしやがって!」
「だ、って、快斗が殺されるかも、って思ったら、」
「バーロー!死んで欲しくねーのはお互い様だろ!…頼むから、危ないことはしないでくれよ……」
ぎゅっと抱きしめられて、やっと状況が飲み込めた。
もし快斗が手を引いてくれなかったら、この下敷きになって死んでいた。
ぞわり、と嫌な汗が背中を走る。
ごめん、と呟けば、快斗は手を離して、ゆいなの目尻にたまった涙を拭った。
「とにかく前に進むしかなくなったな……たぶんスコーピオンが入り口も塞いじまったと思うけど」
「あ…!快斗、スコーピオンは青蘭さんだった!」
「見たのか?」
「うん」
彼が目を細める。絶対捕まえねーといけないな…と呟いて、ゆいなの手を取って立ち上がらせる。と、足に何かが当たって不審に思い視線を降ろし、ゆいなは息を呑んだ。
「いぬ、いさ…!」
「ゆいな、見るな!」
そこに転がっていたのは、血を流して倒れている乾だった。
咄嗟に快斗が目を塞いでくれるも、ゆいなには彼が死んでいることがわかった。足が震えてしまいそうなのをなんとか堪えて、快斗の手を握り返す。ひとつ、頷いた快斗が走り出す。それに続いて、ゆいなはただコナンの無事だけを考えながら走った。
「……なんか、煙たくない?」
「……まずいな」
入り口は、開いていた。
どうやらコナンが開けたようだ。先に出た彼が舌打ちをする。階段を上りきったゆいなは、その光景に絶句した。
そこは、火の海だった。
そして、その火の壁の向こうで、青蘭に銃口を向けられた状態で彼女と対峙する、コナンの姿があった。
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