「インペリアル・イースター・エッグ?」

快斗の部屋で、ゆいなは机に広げられた新聞記事に眉をひそめた。
先月、鈴木財閥の蔵から発見されたというメモリーズエッグ。どれだけ価値があるものかということは、鈴木財閥令嬢であり友人でもある園子から聞いて知っていたが、ゆいなにとっての問題は、そこではなかった。

「……宝石じゃないじゃん」
「まあ、今回は俺の探してるものとは違うんだけどさ」
「それなのに、なんで予告状なんか出したの?」
「それは……」

言いよどむ快斗に、ゆいなは更に眉間の皺を深くさせた。
美術館で展示も決まっているこのエッグがどれ程の値段がつくものなのかはいまいち理解していないが、金銭目的に動く快斗ではない。それは分かっているのだが、ゆいなはどうしても納得がいかなかった。

「今回は、毛利のおじさんも警察に協力するんだって」
「あーあの眠りの小五郎さんね」
「中森のおじさんも気合入ってて、警備もすごいって、青子も言ってた!」
「いつものことだろ」
「もう…あのね、快斗、私が言いたいのはっ!」

きっと強い目で快斗を見返したゆいなの言葉を遮ったのは、彼女のポケットから流れる着信音だった。
むう、と唇を尖らせて快斗を一瞥した後、通話ボタンを押す。

「もしもし、園子?」

電話の相手は、今しがた話題に出ていたエッグの持ち主、鈴木園子であった。
その名前に、ぴくりと快斗が反応して顔を上げる。
じっと見つめてくる視線から逃げるように、ゆいなは背を向けた。

「え?キッドの予告日?……8月22から23日?」
『そうらしいの!でさ、アンタその日ひま?ついでに蘭と大阪観光しない?』
「えっ、と……」

ちらり、背後を見ると、少し不機嫌そうに目を細めている快斗がいる。
園子たちと一緒に行動を共にするということは、必然的にキッドに対抗することになる。しかし今回に限って、ゆいなはそれもいいかな、と思った。

「いいよ、行く!」

にっこりと笑ったゆいなは、満足そうに電話を切った。
背を向けていた快斗にそのことを話すために振り向こうとすると、突然の背中の重みにそれを阻止される。いつのまにか背後に来ていた快斗に、後ろから抱きしめられたのだ。

「ちょ、なに、」
「ゆいなちゃんは、今回は俺の敵に回るってことですかーへーえ」
「べつに、そういうわけじゃ、ていうかいつも協力もしてないし」
「そういうわけだろ」

ぎゅっと抱きしめる強さで、快斗が機嫌を損ねているのが分かった。
すぐに不機嫌になるのを何とかしてほしいと思いつつも、肩に額を押し付けてくる彼の頭を無意識に撫でてしまう自分がいることに、ゆいなは心の中で苦笑した。
それから、ずっと胸に秘めていた不安を吐き出すことにした。

「私、今回は快斗に、盗んでほしくない」

ぴくり、快斗の顔が上がる。それを感じて、腕の中から抜けると、向き合う形に座りなおした。床についた手を、無意識にか、快斗がきゅっと握った。

「嫌な予感がするの」
「……嫌な予感?」
「なんか、なんだろう……怖いの」

うまく言葉にできなくて、ゆいなは俯いた。
キッドが予告状を出したと聞いたとき、何か言いようのない恐怖を感じた。
美術館から宝を盗む、いつもやっているのと同じことなのに、なぜだか今回は、それが物凄く危険なことに感じたのだ。
できることなら、予告を取り下げてほしい。

理由もなしにそんな事を言っても困らせるだけだと分かってはいるが、ゆいなはどうしてもやめさせたかった。

「……俺が捕まるって思ってる?」
「そんなんじゃ、ないけど……」
「わかった」


「じゃ、勝負しようぜ」


ぱっと顔を上げると、不敵に微笑む快斗がいた。
それは、黒羽快斗ではなく、怪盗キッドの顔だった。


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