歯車が軋む大きな音がして、床が砂埃を上げて開いていく。
そこに現れたのは、地下に続く階段だった。
ひゅう、と冷たい風が頬を撫でる。階段の下は暗闇で、どこまで続いているのかわからない。各々懐中電灯をつけて、崩れないか確かめながら階段を下りていった。


「それにしても、青蘭さん、ロシア語お上手ですね」
「……え?まあ、一応ロマノフ王朝の研究をしてますから」
「あ、そっか。研究するためには言葉も勉強しなきゃいけないんですよね」

大変だ、と一人ぼやくゆいなに、青蘭はにこりと微笑む。
地下は思ったよりも深く、懐中電灯の明かりだけでは心もとなく思えた。地下の湿った空気がなんとも不気味だ。
ゆいなは思わず隣に居た白鳥の袖口を掴むと、彼は困ったように眉を寄せて、周りに聞こえないように小さく囁いた。

「ゆいなさん」
「あ……ごめ…ごめんなさい」
「いえ。いいのですが……困りますよ、“わたし”に惚れられてしまうと」
「………惚れませんよ」

にやりと笑った白鳥の言いたい“わたし”というのが白鳥本人だということに気付いたゆいなは、ぷい、と顔を逸らして手を離した。そういう意地悪はやめてほしい。たちが悪い。
前を歩くセルゲイが、それにしても、と声を上げた。

「夏美さん、どうしてパスワードが世紀末の魔術師だったんでしょう?」
「たぶん、曽祖父がそう呼ばれていたんだと思います」

ゆいなはもう一度、白鳥を見る。彼はにこ、と薄く笑うだけだ。
さすがにこの場で聞くわけにもいかなくて、ゆいなは黙って足元を見た。

「にしても、随分広いね……」
「ゆいな姉ちゃん、足元危ないよ」
「わかって……ん?」

かたり、何か向こうのほうで小石が転がるような音がした。コナンも気がついたようで、ぱっと顔を暗闇のほうに向ける。

「スコーピオンか!?」
「僕見てくる!」

止めるまもなく走り出してしまったコナンを追いかけようとした蘭だったが、すぐに白鳥に制される。わたしが行きます、と蘭を抑えて走り出す。それを止めようとしたゆいなの声は届かなかった。

「わ、私も!」
「だめだ!」

毛利に手を掴まれる。それを振り払うこともかなわず、後ろに引っ張られ、ゆいなは唇を噛んだ。
暗闇に飲まれていく二人の背中にぞっと背中に寒気が走る。
これでは一緒に来た意味がない。二人に危険なことをさせたくなくて、後悔してくなくて、ついてきたのに。


何の力にも、なれないなんて。


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