ゆいながラウンジに戻った頃には、どうやら事件は一段落したようだった。
警察はまだ現場を捜索しており、いつのまにか真犯人として知れ渡っているスコーピオンの手がかりがないか調べているらしい。
白鳥もとい快斗が話したことかと思いきや、スコーピオンの名前を出したのはコナンだったようだ。
「倒れたってきいたけど……大丈夫か?」
「倒れただなんて、大げさな…ちょっと気分悪くなっただけ、大丈夫だよ」
にこ、と笑ってみせれば、安堵したようにコナンが息を吐く。
横須賀の城へ行く手段について話している一行から抜け出して、ゆいなはコナンから事件の一部始終を聞いていた。
寒川さんが西野さんを恨んでいて、西野さんの部屋からボールペンを盗んで自分の部屋に残し、自分の指輪を彼の部屋に隠すことによって、指輪泥棒の罪をきせようとしていたこと。
その途中で寒川さんがスコーピオンに殺されたこと。
船から救命艇が一艘無くなっていて、スコーピオンは逃げたのではないか、そして横須賀の城にまた現れるのではないかということ。
「………」
「どうした、ゆいな」
「いや……」
本当に、スコーピオンは逃げたのだろうか。
ゆいなの中にそんな疑問が生まれた。スコーピオンは、自分の正体の鍵になるテープと、マリアの指輪を目的に殺人を犯したという。
ゆいなですら知らなかった指輪のことを、船に潜んでいた暗殺者が知りえるタイミングなんてあるのだろうか。少なくとも、ラウンジで先ほど見せてもらった指輪は、ぱっと見たところ何の変哲もないよくある指輪に思えた。
そのことを話すと、どうやらコナンも考えていたことだったようで、深く考えながら、とにかく、と会話を遮った。
「白鳥刑事も同行してくれるらしいけど、危険なのには変わりねーから、お前は城には来るんじゃねーぞ」
「え、白鳥さんが?」
「ああ……なんかさ、あの人俺のこと気にしてるみてーなんだよな…」
「………」
快斗がどういう思惑でコナンにそういう態度を取っているのかは分からないが、もしかしたら、自分でコナンの真実に辿り着こうとしているのかもしれない。
コナンの正体がキッドにバレてなにか危険があるとは思えないが、それよりも一度命を狙ってきたスコーピオンのもとに、またキッドが行くというのが、言葉に出来ないほど不安だった。
ゆいなはぎゅっと拳を握り、決意を固めた。
「私も行く!」
「……バーロー、今の俺の話きいてたか?」
「きいてた。けど、新一は行くんでしょ?」
「そうだけど……危険だから、」
「危険なのは新一も同じだよ」
今日のように、自分が小学生の体だということを忘れて無鉄砲に動き回る彼を放っておけないのも確かだし、同時に快斗の傍から離れたくないというのもあった。
大切な人の傍から離れてはいけません、後悔します
もう、後悔はしたくない。
「あーもう……オメーはほんっと頑固だよなあ」
「お互い様でしょ?」
にこ、と笑ってみせれば、コナンは長くため息を吐きながら頭をがしがしと掻いた。しゃーねーな、と呟いて、じっと強い瞳でゆいなを見上げた。
「俺から離れるんじゃねーぞ」
「うん」
「危ないと思ったらすぐに逃げろよ?」
「わかった。でもそれより新一は、ちゃんと蘭のこと守ってあげてね」
「……!あのなあ!」
コナンは何かを言いたそうに声を荒げたが、すぐにぎゅっと唇を噛んで顔を逸らした。
「いいから、無茶だけはすんなよ。わかったか?」
「うん」
「………ったく」
きっと同じように彼にも怒られるんだろうな、と想像して、ゆいなはこっそりと苦笑した。
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