心の真ん中から、指の先まで、全てが凍ってしまったように思えた。
ゆいなは震える手で、なんとか携帯のボタンを押す。耳元に当てたところで、快斗の声が聞こえることはない。
ただ無機質な音が、その電話が繋がっていないことを知らせてくるだけ。

怖い。

最後に聞こえた、何か鋭い音が何の音だったのか、嫌でも想像してしまう。
頭の中が真っ白になって、そのまましゃがみこんでしまいそうだった。
それでもなんとか自分を奮い立たせて、ゆいなはまたリダイアルをする。


「……っ、そうだ、新一、」


コナンがずっと追いかけてくる。その快斗の言葉を思い出して、何度か携帯が手から滑りそうになりながらも、ゆいなは慌てて彼の名前を押した。
ぷつ、という音のあと、幼いが鋭さのあるコナンの声が聞こえた。

「新一っ!」
『どうした?何かあったか?』
「かい、と、」

ゆいなは、ゆっくりと息を吸った。
だめだ、落ち着けと自分に言い聞かせる。今ここで取り乱したら、大変なことになってしまう。落ち着け、落ち着け。

『かいと?』
「怪盗、キッドは、見つかった?」

ポーカーフェイス。
いつも快斗が言っていたこと。顔を見られているわけではないが、ゆいなは全神経を声に集中させた。冷静に、何気ないように聞こえるように。


『ああ……追いかけてたんだけどさ、』
「うん」
『キッドは、』


その後に続いたコナンの言葉に、ゆいなはどう答えたのか、覚えていなかった。


「………ばか」

夜の海は、まるで夜自体そのもののように真っ暗で、空と海と全て一体になって、全部を飲み込んでしまう闇のように感じられた。
ゆいなは、コナンが証拠を見つけたという場所に、一人座り込んで海を眺めていた。

木箱の壊れたエッグ
傷ついた白い鳩
そして、割れた、キッドのモノクル

コナンが見かけた人影と、直後海のほうに傾いた白い翼。路上から見つかった空の薬莢。何より、現場に残されたキッドのモノクルから、警察はキッドが何者かに撃たれて、海に落ちたと判断し、今も懸命に捜索を続けている。

「バ快斗!ほんと、ばか……!」

ゆいなは、握り締めた携帯を、そのまま地面に叩きつけてしまいたかった。
恐怖も、悲しみも、不安も、怒りも、どこに向けて良いのか分からない。

皆と合流して、ことのあらましを聞いている間、ゆいなはずっと何も考えないようにしていた。
泣いたり叫んだりしてしまわないよう、じっと唇を噛んで、耐えて、無表情を装うのに必死だった。なんとか皆が寝静まった頃にこうやって抜け出して、一人で海に向かって膝を抱えていても、ゆいなは涙を流せなかった。

何かひとつを緩めてしまえば、誰かに泣きついてしまいそうだった。
快斗を見つけてくれと、泣きながら必死に叫んでしまいそうだった。

でもそれは駄目だと、何度も何度も自分に言い聞かせて、言い聞かせて、ただゆいなは待った。


「何があっても大丈夫だって、証明するんじゃなかったの……?」


息を吐くような声が、自分で思っていたよりも寂しくて悲痛で弱々しくて、ゆいなはたまらず唇を強く噛んだ。


うっすらと、地平線に光が現れた。
焦らすように昇ってくる太陽が、平らな水面に広がるように光を伸ばしていく。


結局、ゆいなの携帯が鳴ることはなかった。


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