時刻は7時過ぎ。
蘭たちと合流したゆいなは、夕飯を道頓堀で済ますことにして、和葉のおすすめの店に案内してもらうことになった。

「平次たち、先に美術館に戻っとるって」
「なあんだ、一緒に食べようと思ったのに」
「(予告状、解けたのかな…)」

どうにも腑に落ちない予告状。彼等二人が力を合わせたのなら、今頃解けているのかもしれない。もういっそのこと、コナンにメールでもしてみようか。そう思い取り出したケータイが、タイミング良く震えた。画面を開けば、差出人は案の定快斗。


『花火、見たいって言ってたよな?』


「花火…?」

首を傾げた途端、ぱっと夜空が明るくなった。


「わあ!きれいー!」

次々と空に打ちあがる、色とりどりの光。
ぱっと散ってはすぐに暗闇を塗りつぶすように次の花火が上がる。
お祭りのような大量の花火を、道行く人は足をとめて見上げている。

「おかしいなあ、今日は花火の日とちゃうんやけど…」
「……っ、和葉ちゃん!あの花火どこら辺からあがってる!?」
「え、たぶん…大阪城ちゃうん?」

快斗だ。

ゆいなは腕時計を見た。7時20分。まだ午前三時じゃない。
時計の針は、「L」ではなくて、ひらがなの「へ」の形をしている。

「……!園子!キッドの予告状の写メあったよね!」
「え、あるけど…」
「みせて!」

園子の携帯をぱっと奪い取ると、ゆいなは肝心の箇所を目で追った。

「黄昏の獅子から暁の乙女へ……秒針のない時計が12番目の文字を刻む時…」
「どうしたの、ゆいな?」
「12番目の文字って…そっか!この予告状の頭から数えて12番目!」

黄昏の獅子から暁の乙女「へ」
つまり、今この時間が、予告状に記された時間だったのだ。

花火がやんだ。夜空が一瞬暗くなると同時に、あたりが一瞬にして暗くなった。
まぶしいくらいだった川沿いのネオン全てから光が消えている。

「停電!?」
「なんかおかしいで、これ……」
「キッドかも……」
「え!?」

それにしても、わざわざ自分が現れる場所に、あんな大量の花火を打ち上げる真意がわからない。あれだけの量の花火の中、ハンググライダーで飛ぶことは不可能になってしまうし、何より今回はいつものような観客が集まるショーではない。相手は警察だけで、ハデに盗む必要もないのだ。自分が現れる場所に、注意を引き付ける理由がない。

「(もしかして、大阪城じゃ、ない……?)」
「これ、キッドの仕業なん?」
「予告時間までまだ時間あるのに…」
「おじさまの推理、外れたんじゃないの!?やだ、てことはもしかしてキッド様はもう大阪城に…!」

そのとき、遠くの高いビルに、光が点いた。
街の中が真っ暗なのを見ると、自家発電に切り替えたのだろう。
あそこは病院やね、と和葉が呟いた。

停電させる理由。エッグを盗むためなら、美術館だけを停電させればいい。無意味に町全体を停電させて、混乱を招くようなヘマをする快斗じゃない。
そのとき、ゆいなの頭にひっかかっていたひとつの言葉が浮かんだ。


―今回はキッドがマジックをする機会すら与えないんだがな!

「そ、っか!」
「なになに、どうしたのゆいな!?」
「和葉ちゃん、この辺で周りを見渡せる高い建物って?」
「え?高いところから見渡す?だったら通天閣かなあ…」
「それだ!」

ゆいなは走り出した。

中森の言っていた、マジックをする機会を与えない、というのは、マジックを披露する場所をなくす、という意味だろう。いつもは常に厳重な警備装置で対象物を保管しようとする中森が、あんな壊れそうな木の箱に入れて持ち歩くことを許し、あまつさえゆいなたちに間近で見せるということに何も言わなかったのにも納得がいく。

美術館ではない、どこか別の場所に、中森自身が抱えて、隠しているのだ。

そして、快斗はあらかじめ、警察がそういった作戦を立てていることを知っていたか、予想していたか。ハデに追っかけられない、と快斗が言っていたのは、そういうことだったのだ。たぶん目立たないためにたいした警備もしていないその場所にもぐりこんで、簡単に盗みを終えるつもりなのだ。

それにしても、走り出したはいいけれど、交通も完全に停止しているこんな状況では、とてもじゃないが通天閣まで行くことはできない。
そう考えて足を止めたとき、ポケットの中で携帯が震えた。

『光のショーは楽しんでいただけましたか?お嬢さん』
「……快斗」
『その声は、俺が今どこで何してるか分かってそうだな』
「停電にして、病院とか以外で早く電気が復旧した場所を、通天閣から探してたんでしょ?大阪城の花火は、フェイク」
『おー!正解!』
「で、今はもうエッグを手に入れて空を飛んでる?」
「すげえな、ゆいな。オメー、探偵だった?」

楽しそうに笑う快斗に、ゆいなはため息を漏らした。
空を飛んでいるということは、まだ逃走中ということだ。そんな状態で電話をしてくるなんて。

「とにかく、きるよ!落ち着いたら電話して!」
『ちょっと待てって、ゆいな、オメーがいつも一緒にいるガキ、あいつ何者だ?』

突然出された話題に、ゆいなは一瞬何のことか分からなくなる。
しばらく思案して、思い当たって言葉を発した。

「ガキ……って、しん…コナンくんのこと?」
『そうそう、さっきからずっと追いかけてきてるんだよなー』
「!?ちょ、なんでそんな暢気なの!?」
『いやだって、さすがに追いつかれない……』
「その子なめないで!とにかく、早くどっか隠れて!」
『……オメーさ、ずっと思ってたけど、何か俺に隠し、』

快斗の言葉がそれ以上続くことはなかった。
ゆいなが最後に聞いたのは、受話器の向こうで何かがはじけるような音。
聞いたことのない音だった。けれど、ぞわりと背中に寒気が走って、頭の中が真っ白になった。


「………かい、と?」


返事はない。
雑音のような音が混じって、数秒もなかったかもしれない、すぐに電話が切れた音がゆいなの耳に届いた。

ツーツーという無機質な音が、ゆいなの思考を奪っていった。


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