「ああ、もう、また」
ぽろり、とこぼれた言葉はまるで母親のようだと、僕自身すごく思う。
実際、シリウスなんかにもそうやって言われるし、多分なまえ自身もそうやって感じているんじゃないだろうか。
「女の子なんだから、ちゃんと髪くらいとかして降りておいでよ」
「んー…」
ぎゅ、となまえは僕のお腹に抱きつく。寝ぼけている時の癖だ。僕はそれを引き剥がすことなんてもちろんできないから、ゆるゆるとその頭を撫でてやる。それから、杖をひとふり、彼女の部屋からブラシを呼び寄せて、ふわふわの髪をとかしてやった。
んーありがとう、すき。
なんて、ぼやいた彼女の頭をぽかりと叩く。
この子は本当にどうしようもない。
「ひゅーひゅー今日もお熱いことで」
「吹けない口笛の真似をするくらいなら、先に行って席をとっておいてよ、ジェームズ」
「わかったよママ!」
「うるさいとっとと行け」
「つーか、甘やかしすぎだろ、リーマス」
なまえがだめになるぞ。
シリウスの言葉に、余計なお世話だよ、と一蹴。二人とも先に行かせて、二人きりになった談話室で、僕はブラシをソファに放り投げ、なまえを抱きしめた。
「ん、どったの?リーマス」
「はは、間抜けな顔。しゃきっとしなよ」
「うー…しゃきっとさせて」
そんなことまで依存するのか、と僕は呆れるどころか内心でにやりとした。
仕方ないなあと、呟きながら、彼女の唇に噛み付く。
なまえがだめになる?
そんなこと、あたりまえだろう。わかりきったことだ。
だって、僕がわざと、だめにしてるんだから。
「……ん。目が覚めた?」
「うん……」
「今度は顔真っ赤。ほら、襟を整えて。スカートもしわがよってる」
真っ赤な頬に唇を寄せることだって勿論忘れずに、僕は彼女の衣服を正していく。このまま逆に乱すのもありかなあと邪な考えが頭を過ったけど、そこは僕は僕の役割を演じなければならないから我慢した。
「……わたし」
「うん」
「リーマスがいなくなったら、生きていけないかも」
ぽそり、呟いた彼女の声は、大変だあ、と続く。そんな危機感のない言い方があるものだろうか。僕は思わず笑ってしまう。
「大丈夫。いなくならないから」
「ほんと?だめな子でも愛想尽きたりしない?」
「しないよ」
だって僕がそうなるようにしてるんだから。
なんて、そんな言葉は飲み込んだ。
どうかもっと僕に依存して、君のすべてを僕に預けてしまって欲しい。
「大好きだよ、なまえ」
嬉しそうに微笑むその顔も、暖かいこの体温も、ぜんぶぜんぶ、死ぬまで、死んでも、僕のもの。