ドジっ子がかわいいとか何処の誰がそんなこと言ったんだろう。
その人を目の前に連れてきて、私の今の状況を見ても同じ事が言えるのか問い詰めてやりたい。


「い…ったい…」

ぶちゅ、と地面とキスをして、アスファルトの苦い味がした。顔を守ったつもりが守れてなかった上に、無防備な膝にじんわりと痛みが広がった。こんなことならスカートを切るんじゃなかった。

「………うー…」
「……なまえ?大丈夫かよ…」
「ちょっと、ここは笑うところでしょ…黙られたらなんか起き上がれないじゃん…」
「いやー俺は今の状況満足してるぜ?」
「は?」
「パンツ見えてる」
「……!!!」

こんなことなら、スカートを切るんじゃなかった!

慌てて起き上がって振り向けば、快斗はにしし、と悪戯っ子のように笑う。いや、別に快斗が故意にスカートをめくったわけじゃないし私がドジっただけなんだけどなんだなんかムカつく。

「あーあー。白馬くんだったら、きっと目を逸らして、困ったように笑いながら手を差し伸べてくれるんだろうなー」
「へーへー」
「それからきっと、もう転ばないようにって手を繋いでくれるよ。白馬くんまじ王子様!」
「……オメーは白馬に幻想抱きすぎだろ」
「そんなことない!こないだ転んだ時はすぐ助けてくれたもん。誰かさんと違ってねー」

快斗のにやにやとした顔が消えて、すぐにむすっとした顔になった。
ざまあみろ、そんな風に思いながら私はスカートをはたいて立ち上がる。
ちなみに、白馬くんが助け起こしてくれたのは本当。手を繋いだってのは脚色です(さりげなく道路側を歩いてくれた紳士だったけど)

「あー血が出てる…」
「オメーはほんっとドジだな」
「うっさい」

絆創膏を探して鞄の中をごそごそとしていると、ふいにぴりりと膝に痛みが走る。下を向けば、快斗が絆創膏を貼ってくれていた。

「……」
「まったく…今月二個目だな。しかもいつもみっともないコケ方」
「どーせみっともないドジっ子ですよ」

そうなのだ。
砂糖と塩間違えちゃったテヘ☆っていうのも、角のところで男の子とぶつかって運命の出会い…!てなるのも、漫画の中の美少女が許されることであって、実際にドジを踏むというのはかなりみっともないことなのだ。
膝小僧に絆創膏を二つも貼り付けて、あまつさえ公道でパンツをさらす女子高生なんて。

だから、そう、冒頭に戻る。


「もっと落ち着きのあるかわいい女の子になりたい」
「そりゃ無理だ」
「このデリカシーなしバ快斗!白馬くんの爪の垢でも飲め!」
「白馬白馬うっせえよ」

本気で機嫌を損ねたのか、快斗が今しがた絆創膏を貼った傷を思いっきりはたいた。
地味な痛みにもう一度うずくまると、反対に立ち上がった快斗に腕を引っ張られる。

「このバカ!」
「はいはい」
「叩くとかまじ信じらんない…」
「いいから行きますよーお姫様」

ぐい、と腕を掴まれて立ちあがらせると、私が睨んでいるのなんてお構いなしに、快斗は私の手を握って歩き出した。しかもいつのまにか恋人つなぎ。

「……なんの真似?」
「転ばないように?」
「なにそれ」

なまえが言ったんだろ、と言い返されたけど、わざと少し前を歩く快斗の耳が赤いのを見つけたら、笑いしか出てこない。

「なまえってほんとドジでみっともないよな」
「まだ言うか」
「……でも、俺はかわいいって思うぜ」

かあ、と自分の顔も熱くなるのがわかった。
だけど相変わらず快斗は前向いたままなのをいいことに、私は少し強がってみる。

「それはドジだから?」
「んー。がんばりやさんだから、かな」

くるり、突然振り向く。私はしまった、と思って慌てて片手で顔を覆った。にやついて顔が赤くなっていたのがバレてしまう。案の定、快斗はからかうように笑った。

「ドジでもみっともなくても、なまえはいーの」
「……っ、なんで?」
「俺がいつでも傍にいるから…なんてな」

にかっと笑う快斗はさっきまで最低のいじめっこだったくせに、ずるい。かっこいいだなんて、本当にずるい。

「じゃあ、今度からちゃんと助けてよね!」
「パンツが見えてなかったらな」
「なにそれ」

怒るところなのに、ふきだしてしまうのは、やっぱり仕方がないなあと思う。
快斗はぎゅっと手を握って、私を少し引き寄せて、ちょっとだけ不機嫌そうな顔をしてから空いている手で、私の頭をがしがしと撫でた。


「オメーの王子様は俺だけだからな」


白馬くんの名前は、どうやらとうぶん禁句みたいだ。


(thanksさくらさん)
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