掬う熱の先に






 隣合って座る距離が僅かに近づいた。膝に置いていた掌を男の掌が掬うと、何を思ってか爪の先をなぞる。その擽ったさに妙は身をよじった。真意を探るように、横顔を覗き込むも、銀色の睫毛は微動だにせずただただ、細く薄桃色に染まった爪を見つめている。

「あー食っちまいてェ」

 唐突に男の口から零れ落ちた言葉があまりに場にそぐわず、理解が遅れる。ただ分かるのは、その声音は明らかに苛立ち以上の感情を含んでいて妙は思わず手を引いた。

「冗談だろ」

 逸らしかけた視線を追うように、今度は男が妙の顔を覗き込んだ。合わさった男の瞳の奥に、熱く揺らめく獣の姿が映る。それを映した瞬間、ざわざわと妙の本能が揺り動いた。胸のざわめきと今までに感じたことのない感情に体は正直で隠すことは出来ずに身震いした。

「美味しくないですよ」

 逸らせない瞳がさらに近づく。大根役者のような言葉並びに男は答えない。捕らえられたままの掌は取り去ろうと思えば簡単にできた。けれど。
瞳を閉じるのと唇に温もりが触れたのは同時だった。

「誘い文句として受けとるけどいいよな」

 啄むような口づけの合間に交わされる言葉を最後に縺れるようにそのまま沈んで溶けていった。





SS垢より加筆修正。

よくわからない話になりました…

 




2016.06.24





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