唯一無二
髪を梳く手が優しくて新八は目を閉じる。この歳になって姉の膝枕を借りるなんて。
「大分髪伸びたわね」
襟足まで梳かして、また頭部に戻る。いつだって新八を信じ、一番に愛してくれた姉が新八は大好きだった。
「…体勢辛くありませんか?」
そう気遣うのは、姉の腹の膨らみを想ってだった。
今年の春に姉は上司である坂田銀時と結婚した。授かり婚だった。初めこそ容認出来ないと上司を責めたが、お互いが想い合っていたことを少なからず知っていた新八は上司を信じ、姉を泣かせないことを条件に結婚を許した。今でもあの日の出来事を忘れられない。
「平気よ」
その声に上を向くと、穏やかに微笑む妙が新八を見下ろしていた。
その顔は正しく母の顔で、もうすぐ産まれてくる子に向けているようだった。ずっと姉と一緒だった新八は、胸の奥がモヤモヤする。
一番に愛情をくれていたのに今では上司、いや腹の子に向いているのが気に食わなかった。
二十歳にもなって情けない。
「どうしたの?」
ああ、またやってしまった。
感情が表情に出てしまい姉を不安にさせてしまった。
出産前の姉を困らせたくはないのに。何年経っても変わらない自分に嫌気がさす。
「また何か深く考えてるのね」
クスクス、新八との思いとは裏腹に楽しそうに笑う姉。
「新ちゃんが変わらないでいてくれて私、嬉しい」
姉の言葉にハッとした。
「いつだって甘えていいのよ」
新八の前髪をするりと撫でる。
「私はいつだって新ちゃんの…一番の家族なんだから」
それだけは覚えて置いてね。
左耳に姉の膨らんだ腹が当たる。小さな命がためらいもなく動いていた。
この子が産まれたらもっと姉が遠くに行く気がした。
腹を勢いよく蹴る小さな命に、嫉妬して。馬鹿だな。目頭が熱くなって強く目を瞑る。姉の言葉と小さな鼓動に新八の気持ちが晴れていく。
「新ちゃん」
柔らかい声が響く。
「お誕生日おめでとう」
姉の言葉に、もう涙を堪えられそうになかった。
新八誕生日SS
2014.08.12